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第10次(1992)喀什〜西安(選抜隊
17年の夢、今実る。 シルクロード4000km走破


  サイクリング仲間で、シルクロードを走ろうという話が出たのが今から17年前。しかし、国家体制が違う中国のサイクリングの許可を得ることは、夢の夢の話であった。その後、兵庫県・神戸市などの応援を得ながら、友好訪中団を組織し、少しでも許可を取れるよう条件整備を進め、ついに外国人として初めて走行許可を得たのが1983年、さらに草の根交流を積み重ね、毎年訪中団を送り出し、中国人民政府から特別許可を得て未開放地区を走り実績を作って来た。そして、とうとうシルクロード走行の全面許可を得るに至った。実に、石子路の運動を開始して17年目のことである。
 過去9回の訪中サイクリングの団員250名から選抜隊9名が組織され、1年間のトレーニングを得て、世界初挑戦のシルクロード4000キロの完全完走を目指した。そして、新聞で一般公募の42名(蘭州〜西安700キロ)を加え、今回の石子路第10次訪中となった。作家・陳舜臣さんの「『夢は必ず実現する』と言うのがシルクロード病患者の信念である」の言葉どおり、まさに『17年間の夢の実現』という期待を抱いて、中国の西の果ての地・喀什(カシュガル)へ向かった。  7月27日に喀什を出発。日の出から僅か1時間後の午前10時には、気温は既に48度に達している。タクラマカン砂漠の焼けつけるような灼熱の太陽の下、木一本、家一軒ない砂漠には日陰などあるはずもない。走りながらお茶とポカリスウェットをがぶがぶ飲み、休憩時には伴走車から差し出されるスイカをむしゃぶる。それほど水分を摂っているのに小便はほとんど出ない。すべて汗となって出ているはずなのに、乾燥と日照りの強さでユニホームが濡れもしない。朝から100キロ走って、初めてのオアシスで昼食。屋根のないトイレでは、糞まで焦げ付いていた。頭にガンガン照りつける太陽の下では3分間として我慢できなかった。
 あまりの暑さと疲労で、下痢と嘔吐を繰り返し、脱水症状になりながら、それでも走り続ける。翌朝の健康チェックでは、全員が異常を訴える。嘔吐・鼻血・胃痛・下痢・微熱・睡眠不足・頭がボーツとしている等、挙げれば切りがない。こんな砂漠を丸2日走って着いたオアシス・一間房。1家族6名と手伝いさん5名の合計11名だけの村である。それでも地図にも載っている貴重な砂漠での都市?である。ガス・水道もなく近代文化生活と全く掛け離れ、何千年も昔からの生活がそのままの形で自然と共に営まれている。そんな所での泊である。夜は屋外で毛布を敷き、満天の星の下でいつの間にか寝込んでいた。(夜中はさすがに冷えて部屋に移動) 道は、どこまでも真っすぐ続き、蜃気楼の向こうの地平線で消えていっている。
 サイクリング7日目、車しか通れないという地・干溝(カンコウ)へ来た。車が来れば砂埃が立ち込め前は全く見えなくなり、車でさえ何度も立ち往生。「絶対、自転車では無理だ」と土地の人や中国人スタッフ全員が口をそろえる。それでも途中少しでも途切れては意味がないので、たとえ自転車を担いでも進む以外にはないと腹をくくる。急坂な下り、しかも砂地のダート(43キロ)を含む258キロを、結局朝6時40分から翌朝の午前1時20分まで18時間半をかけて走り抜いた。スピンを防ぐため、一番ローギヤーでペダルを漕ぎながらブレーキをかけての走行は、実に厳しいものであった。 また敦煌(トンコウ)近くの94キロの連続ダートでは、ハンドルを握る手・肘のしびれがひどく背中まで痛みだすほどであった。砂・砂利にハンドルを取られ、15回以上転倒し、膝のケガでドクターストップがかかっても走り続けたジョイナー前永、脇腹を押さえながら走った東郷、突風で飛ばされ転倒肩を亜脱きゅうした小池、ヘルメットが割れるほど強打した岡田など、毎日がハプニングの連続であった。 200キロ以上続いた上り坂、自転車ごと飛ばされそうな強烈な向かい風、標高3千メートルの天祝(テンツオ)、そして雨でびしょ濡れになり、寒さで手足の感覚を完全に失いブルブル震えていた蘭州東部の山岳地帯、大自然の厳しさを今でももち続けるシルクロードを走り抜き、ついに咸陽(カンヨウ)で赤のユニホームの集団(本団)の出迎えを受けた時の感激はとても言葉では言い尽くせない。
 ついに第10次石子路の訪中団選抜隊と本団の一行51名が8月19日夕、シルクロードの起点・西安に無事ゴールインした。そして世界で初めてシルクロードの自転車による完全完走に成功したのであった。 私達第10次訪中団が、シルクロードの全行程を完走できたのは、石子路之会17年間の地道な努力が認められ人民政府からの全面的な協力と、本団42名を含む第10次訪中団51名全員が自分の足でシルクロードの大地を踏み締め、歯を食いしばって仲間と共に力を合わせた結果である。そして、私もその訪中団の一員であることに誇りを感じると共に、大変貴重な体験をさせて戴いたことに感謝の気持ちで一杯である。そして応援して戴いた多くの方々に心から感謝して、第10次訪中団の報告としてさせて戴きます。(詳しくは『シルクロードは熱風怒涛』マガジンハウス出版を一読ください)  

(石子路之会会長 小池 啓納 1〜19次訪中)

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