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はじめに
トレモロ、ビブラートに次いでフェイザーの話です。揺れものの歴史としてはウーリツァービブラートの次あたりに開発されたのでは無いかと思います。(当然真空管の時代ですね。)

移相器、フェイズシフター(phase shifter)
ウーリツァービブラートで出てきましたが、フィルターの一種オールパスフィルターは移相回路、フェイズシフターとも呼ばれます。この回路はフィルターという名前にもかかわらず、周波数によって振幅は変わりません。そのかわりに周波数によって位相が変化します。
左にフェイザー等で良く使用される移相回路の特性を示します。(一次の低域位相反転型と言います。)
ここでωは移相器の時定数で、
入力する周波数がωの時、位相が90°進みます。
周波数が1/10の時(1/10ω)、位相が180°進みます。
周波数が10倍(10ω)以上では、位相は変化しません。
周波数が1/10ωから10ωの間は、だいたい直線で近似します。

フェイザー(Phaser)
フェイザーは上のような特性を偶数個並べて原音とMIXする構成になっています。
左は移相器を4段にした場合のフェイザーの原理図です。
ここで、
φマークは上に示した特性の移相回路です。
○に+マークの記号が書いてあるのは加算器で、二つの入力信号を加算(ミックス)します。

フィルターとしてのフェイザー
まず、フィルターとしてのフェイザーの特性を考える為に、移相回路を4段重ねた時の周波数特性を考えてみましょう。
左が移相回路を4段重ねた時の周波数特性です。
周波数によって720°から0°まで位相が変化しています。
この図では周波数が1/10ω、ω、10ωの時それぞれ位相が720°、360°、0°ずれています。
これらの信号は原音と比較すると全く同相の信号ですから、加算器を通した後の振幅は2倍に成っています。

こんどは周波数が1/√10ω、√10ωの時を考えてみましょう。
これらの周波数は原音と180°ずれている逆相の信号ですから、加算器を通した後の振幅は0になります。
以上をまとめると図の下側のようなよく見る周波数特性に成ります。

これだけでも”ジョリ〜ン”とした”ドンシャリ風”のトーンですが、実際のフェイザーでは更に時定数ωをLFO(低周波発振器)で動かして、”シュワシュワ”した音にします。

上図では移相回路を4個使った例を示しましたが、製品によっては移相回路を2、6、8、12段にした物もあります。作図すればわかると思いますが、それぞれ発生するノッチの数は1、3、4、6と移相回路の数の半分になります。

ちなみに並べる奇数個、移相回路を並べると上の周波数特性でディップとピークが逆転された形になる(ほとんどの周波数で音が出なくて、一部の周波数でだけ音が出る。)ので、普通はあまりやりません。

ビブラートマシンしてみたフェイザー
低い周波数でLFO(低周波発振器)を動かしていた時は、上のようなフィルターとしての性格が強いフェイザーですが、LFO(低周波発振器)の周波数が高くなってくると聴感上ビブラートの感じが強くなってきます。(人の可聴帯域幅と時間分解能の関係に関連している気がするのですが…)

まずは、フェイザーの原音を加える部分を抜いて、
電圧でωを変える事の出来る移相回路を4段つなげた物を考えます。


この回路の位相特性を下の図の黒線で示します。
次に制御電圧によってωが10ωに変わった時の特性を考えます。
ω'=10ωですから、ω=(1/10ω')の時、720°進みます。
10ω=(ω')の時、360°進みます。
100ω=(10ω')の時、は原音と同じ位相です。


代表的な点の原音からの位相のずれを以下に示します。

制御電圧1/10ωω10ω100ω
ω=ωの時(黒線)720°360°
ω=10ωの時(赤線720°720°360°

グラフからω〜10ωの間に360°の位相差があることがわかるとおもいます。

ここで赤線の状態で音が出ている時に黒線の状態になると位相が360°分減ってしまいます。これは1周期分周波数が落ちることを意味しています。
逆に黒線の状態から赤線の状態になると1周期分周波数が上がってしまいます。
つまり、この回路の時定数ωを制御電圧でふってやると、ω〜10ωの間の信号にはビブラートが掛かることを意味しています。

上の例ではωが10倍変化する特殊な場合を考えましたが、ニュアンスとして、
ωが変化した時の幅がビブラートの深さを表し、
高域と低域ではビブラートの掛かりが薄く
、ω近辺でビブラートの掛かりが深い
と言う特徴は伝わったのではないかと思います。

フェイザーをこの様なビブラートマシンに原音を加えた物として解釈が出来る事がわかったと思います。

マグナトーン(Magnatone)
Magnatoneの一部のアンプはきれいなVibratoがかかるのでライクーダーとかニールヤングとか機材にもこだわるギタリストに有名なのですが、Zack's Unofficial Magnatone Website is the place for information about real pitch shifting vibrato and the Magnatone soundによると
June 13, 1961, Don L. Bonham was granted a U.S.Patent"2988706"
で特許を取ったバリスターを可変抵抗素子としてつかったこの方式のビブラートマシン だったようです。

HAMMOND L-100
Tremolo,Vibrato、トレモロ、ビブラートのページで VOXのアンプの事を書いたのでそれと対比させようと思ってMagnatoneについてコメントしたわけですが、書き方があまりこなれていない為に
「位相変調型のビブラートマシンはMAGNATONEがオリジネーターだ!!」と誤解する人がいるとまずいのでちょっと追加します。

1960年にはハモンドの大ヒットしたスピネットタイプ(B-3みたいな業務用ではなくて家庭用のオルガン)の"L-100"が発売されました。
L-100はスキャナー(Vibrato Scanner)の代わりにこの手のビブラートユニットを搭載していました。
この手のビブラートユニットの定番が確立される途上に設計されたと見えて、

つまりこの手の位相変調型のビブラートは1960年に家庭用に発売されているくらいですから、業務用としてはもっと古くからあったか、少なくともPATENTはもっと古い可能性があります。
L-100のPATENT関係の資料
これからするとL-100の発売当初、この形式のVibratoが載っていなかったか、特許申請していなかったかのどっちかですね。
これと比べると特許的にはMagnatone ampの方が先のようです。

参考音源
”ジョリ〜ン”、”ドンシャリ”とか”シュワシュワ”などと非常に解りづらい擬音を連発しているのでもう少し解りやすいように、典型的な参考音源とか述べてみようと思います。
フェイザーはいろんな曲で使われているのでどれを選ぶかかえって苦労所ですが…。

鈴木茂 BAND WAGON
-Perfect Edition- (DVD付)
個人的にフェイザーの例で思い出すのがこのCDです。ほぼ全曲至る所でギターにフェイザーがかかっています。特にSnow Expressが解りやすいんじゃないかと思います。
Waiting for Columbus ちなみに鈴木茂の音をつくってアンプで歪ませるとlittle featのローウェルジョージの音になるって秘密が(^^;)
The Best of Dave Mason ビブラートっぽい使い方ではLet It Go, Let It Flowのアルペジオなんて良い例では無いかと思います。All Along the Watchtowerでは普通のフェイザーの使い方してますね。
The Right Stuff Stuffはギターに限らずエレピにもフェイザーをかけています。ミュートロンとかエレハモのスモールストーンみたいなレゾナンスを上げた音が特徴的ですね。

参考文献

はじめてのトランジスタ回路設計―回路を設計製作しSPICEで検証!のP227-243に移相回路、フェイズシフターについて詳しい記述があります。(ωを電圧制御する仕組みについてはのっていない)

「CQ出版 トランジスタ技術 2006年 8月号 はじめての電子回路工作 第3回位相シフト・エフェクタの製作」に簡単なフェイザーの仕組みと作り方がのっています。

最後に
もう少し書いたらフェイザーについて書きたいことに一区切りがつきます。
もうちょっと揺れものにおつきあいお願いいたします。


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'06/07/01
Magnatone追加'08/06/24
Last Up Date HAMMOND L-100追加'08/06/26