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 「メジャーな会社がジャズ・レコードをプロデュースすることに全力を注いだ結果さほど印象的 でないものもあった。 事の起こりはフレディ・ハバードがCTIで幾つかの良いセールスを挙げたことでCBSが眼を着 けたことに始まる。 その結果フレディはその後CBSと契約し、シュー・プリームスのようなバックでステージ・ダン スする3人の女性とコンサートに出た・・それは観るに堪えない全くチグハグなもので、何故そん なレコードを作ったのか理解に苦しむものだ・・彼自身もそう思っただろうし、こんな状況だから お先真っ暗である。 確かにクロスオーヴァー音楽のそういった事に対する批評も解るが、ジョージ・ベンソンが行った 事はそれとは全く別のものだ。 私は彼の音楽的アプローチが変わってしまったとは思わない。 彼は大勢の人前で演ることに以前よりも自信をつけたことで更に多くのチャンスを掴んでいる・・ 例えばヴォーカルである。 しかし、ギター・プレイは常に人目をひく派手なものであったが、何百万もの人はジョージ・ベン ソンが何者で何をしている人なのか知っているし好かれていた。 もしそれらのファンがもっと早く知っていたら彼はもっと早くスターになっていただろうが、それ は単に "妥当な出現" ということに係わる問題であり、あまり知られていないミュージシャン達と 同じような仕事をしていたに過ぎない」。 クロスオーヴァー・アルバムの価値を評価する上で大きな問題のひとつは、そのひと自身の判断基 準に新しい方向性を加えねばならないが、今でこそ誰もがアール・ハインズに対して親近感を覚え たようにボブ・ジェームスに対しても直ぐ同じようになれるとは限らないからである。 それで私はクリード・テイラーに、調和のとれた【純粋なジャズ】の偏狭頑迷な (狭くて正しい判 断ができない) ミュージシャンに対し、どのようにCTIのレパートリから最大限のものを引出さ せるアドバイスをしたのか聞いてみた。 彼は暫く考えた後、「リズム・セクションの話しから始めよう。ベースとドラムスはいいとして、 例えば任せられるリズム・セクションがいなかったら、君がいかに個性的なプレイであれ何でれそ のリズム・セクションを大きく損ねてしまうことになるだろう。 私はリスナーの気持ちも解るし、プロデューサをしていた頃はいつもベースとドラムスを最初に確 認し、それからソロを聴いたものだった。 これら全てがひとつのものになってこそ満足のできるレコードになることも解ったね。 チャーリー・クリスチャンのレコードでさえ、まともなリズム・セクションなしでは納得のできる ものではないといえる。 だから何かひとつに絞れというのも難しいし、何でもいいから聴けというのも難しいがスティーリ ・ダンのレコードを買うとかウェイン・ショーターやスティーヴ・ガッドを薦めることはできる。 確かにスティーリ・ダンのプレイはメロディクで構成も上手いからね。 エレクトロニクスはクロスオーヴァー音楽には欠かせないものである反面しばしば誤用されること もあったが、でもジョー・ズワイヌルはそれらを最高に使いこなしていた。 そしてジョージ・デュークはエレクトロニクスを聡明に活用しており、多くのレコードを売っただ けでなく小細工なしにありのまま表現していることにある。 私にとって、全てはリズム・セクションに始まりリズム・セクションに終わるが、なかでもスティ ーヴ・ガッドは知る限り最も多才なドラマーのひとりである。 彼はジム・ホールとのとき、エスサー・フィリップスとは全く違うサウンドを作り、エンジニアを てこずらせることなくマイクに向かってプレイするテクニックはずば抜けており、理想とするリズ ム・セクションに起用できる。 そしてベースではウィル・リーとゲイリ・キングは個人リストではトップに入るし、ロン・カータ ーとマーク・イーガンにも高い評価をしている」と答えた。 テイラーの好みは彼自身が認めるように、1950−51年の "ノーヴォ/ファーロウ/ミンガス" トリ オがお気に入りだったことに関連している。 そして彼のプロダクション "desert island (無人島)" からのベスト・セレクションについて尋ね てみると、クウィンシ・ジョーンズの《ザッツ・ハウ・アイ・フィール・アバウト・ジャズ》とジ ム・ホールの《アランフェス協奏曲》で "天才+ジャズ=ソウル" (訳注: 天才はクウィンシ、ジ ャズはジムでソウルになるといいたいのか、天才がジャズを演るとソウルになると言いたいのかよ く解らない) そしてスタン・ゲッツ、ウェス・モンゴメリ・アンド・ウィントン・ケリィ、さらに 初期のアントニオ・カルロス・ジョビンによるアルバムの幾つかを挙げた。  「その他にも1977年にニーナ・シモンとレコーディングしたアルバムも追加させるが、このプロデ ュースは今までで一番困難なものだった。 しかしニーナは文句のつけようが無いぐらい素晴らしいアーティストだったよ」。 テイラーは自分の時間の中でその90%をスタジオで費やしている・・時折古い付合いのルディ・ヴ ァン・ゲルダーと一緒に。 「先ずリズム・セクションのミキシングからとりかかる。そしてドラムスとはペットがいいのかそ れともテナーとの組合せがいいのか、ベースは絶えずベスト・サウンドが出せるのかというのが私 の言うミキシングでなんです。 そう、まるでチェスの駒進めを楽しむようにソロの順番や長さを決め、実際のレコーディングやミ キシングを考えて行くんです」。 テイラーは市場の動向やラジオ放送の番組に加え今の流行が音楽雑誌に反映していることを常に考 えている。 彼は、「誠実なジャズ・アーティスト達を無理に妥協させるのではないんだ」と主張する。 ある少数の運のよい、しかも才能あるミュージシャンを少しでも購買者に興味を持たせるよう手援 けをするプロデューサとして、自分の誠実さを維持しているのである。