The jazz wood engraving of "Mr. Michio Toi"
戸井氏は2009年10月永眠されました


JAZZ木版画の紹介

 創作版画家の戸井三千男(といみちお)氏は1947年香川県に生まれ、関西学院大学を卒業後、大阪
でグラフィック・デザインを本業とする傍ら、好きなジャズと培った才能を活かし木版画の創作を
おこなってきました。

徳井:きっかけはなんだったんですか。
戸井:大阪に通販専門のジャズ・レコード店、ライト・ハウスが毎号発刊する送付リストの表紙に
   最初は切絵を使っていたのですが、その製作者が病死されたあと依頼を請けたと言う訳なん
   です。

徳井:何故版画だったのですか。
戸井:切絵は掲載後希望者にあげていたそうなんですが、努力しても一点しか作れないので効率の
   面から版画を思いつきました。
   それで、私も趣味と実益を考えファンの方々に頒布することにしたのですが、毎号製作した
   ものがもう直ぐ百点になろうかと思います。

徳井:色々と観せて戴きましたが、特定のミュージシャンでもなく誰かに似ているようで似ていな
   いというのは何の意図があるのでしょうか。
戸井:そうなんです。特定に拘るとそのファンだけが関心を示すだけのことであって、私は広い意
   味でのジャズ全体を訴えたかったのです。

徳井:それにしても、構図といい色彩といい人物の表情がたまらなくいいですね。
戸井:勿論ジャズが好きだったころから、多くの写真やイラストを見てはいますが既に頭の中には
   マンネリを防ぐため絶えず新しいアイディアで一杯なんです。
   現在も毎号製作していますが、創作版画ということで肉体的に疲れるところもあるんです。

徳井:創作版画というのはどういうことなんですか。
戸井:版画も種類があるのですが、江戸時代に見られる絵師広重の浮世絵版画技術は絵師、彫師、
   摺師と分業されていたのが大正の頃から個性をだすため独りで製作するようになり、百枚2
   百枚と多くなるほど摺るという作業が一番つらいわけなんです。

徳井:製作の段階で神経を使うことは何でしょう。
戸井:特に夏場はこの摺りにおいて、版木の塗料が乾きやすいので部屋のクーラーを消し窓をあけ
   適当に空気を入れ替えながらの作業といったところですか。

徳井:それでは肉体的にも精神的にも疲れてしまいますね。
戸井:でも、版画もジャズも好きなんで、何てッ事ないです。

徳井:いや、本当に打ちこめるということは羨ましい限りです。私もその情熱はあるつもりなんで
   すが、技量が伴わないのが残念です。
   所で、戸井さんは特定のミュージシャンに拘りたくないと言うことなんですが、ここは是非
   全国のウェス・ファンのため限定10葉のオリジナルを摺っていただきたいのですが・・如何
   なもんでしょう。
戸井:実は、そんな話しが今までに無かったといことでもないのですが、特注に応え1998年の2月
   酒田市で個展を開いたり11月には地元大阪でも個展を開催してきました。
   そして2000年5月には【ジャズ・ポートレイト】と称し、偉大なミュージシャン10人を選び
   限定28部の版画集を頒布しました。
   これはズバリ、ドルフィ、コルトレーン、エリントンなどを意識して製作したもので、例え
   ばナット・コールでは〈イッツ・オンリィ・ア・ペーパー・ムーン〉のイメージから三日月
   を配すると言ったものなんです。

徳井:そこには、ウェスも仲間入りしているのですか。
戸井:残念ながら漏れていましたね。だからと言ってはなんですが、ご要望にお答えしてウェスの
   オリジナルを引受けましょう。

徳井:えっ本当ですか、ありがとうございます。
   最後に今後の活動やウェスについて一言お願いします。
戸井:この秋頃【ジャズ・ポートレイト】第2弾を考えています。色々なファンからの要望もあり
   選出に悩みますが、期待していてください。
   ウェスについては、特に気に入ったのが《ケリィ・トリオ・アンド・ウェス・モンゴメリ》
   のハーフ・ノートからのライヴ盤ですね。
   ケリィのピアノが好きで買ったんですが愛聴しています。