ここまで、第W期の締めくくりとしてひとこといいたいのですが、「ハンプトン時代」を出発し
て「パシフィック時代」「リヴァーサイド時代」と、ウェスはその時代時代に応じて色んなプレイ
をこなす中から自らの技量もより一層磨き上げてきたわけです。
しかしながら、この「リヴァーサイド時代」までウェス自身恵まれた条件での仕事にありつけず、
決して満足のできる、はっきりと言えば生活に余裕をもたらす仕事ではではなかったということで
す。
全国的なクラブ出演やそれなりのレコーディングで知名度は既に高かったことと、技術的にも完成
されていたことが、なお更そのギャップを感じさせたことと思う。
そういった、ある種の【暗の時代】から【明の時代】へと才能ある名プロデューサ、クリード・テ
イラーがウェスという人物とその腕前に惚れ込んで引きずり込んだことで、ウェスにとって善きも
悪しきも色々と言われ始めたころであり、生涯におけるターニング・ポイントともいえるのが次の
「ヴァーヴ時代」であった。
コマーシャル的に飾られたステージの上でプレイしウェスは一躍トップ・スターになった訳で、評
論家やそれ以前、つまり本来のジャズ・プレイにあくまでも固執する派と、このコマーシャル派と
二分されてしまった。が、【売れた】という観点からすれば一目瞭然ウェスにとってクリードは救
世主であった。
余計な憶測をすれば、ウェスがヴァーヴに移籍しなかったら、或いはクリード・テイラーが存在し
ていなければ彼の後半の音楽活動、しいては存在そのものが忘れ去られていたかも知れない。
やはり彼はこのヴァーヴで失ったファンより、新しいより多くのファンの心を掴むことができたと
いうことは、進むべき道は間違っていなかったことになる。
私個人的にもこの新しいファン、コマーシャル派のひとりですが、人に選択を聞かれたら「どの時
代も好きです」といえば無難なんですが、あえてどれかひとつに絞れといわれたら、迷うことなく
「ヴァーヴ時代」と答えます。
伸び伸びと、いかにも【明の時代】といえる数々のヒット作に、やはりウェスの性格から比較して
この時代のアルバムのどれを聴いても満足な快感が得られる訳なんです。
円満な生活は決して金銭的にゆとりのあることが全てとは言えませんが、ひとつの条件でもある訳
です。だからこのゆとりがウェスのプレイに表れるのはごく自然なことであり、リスナーにもその
安心感から満足感を与える事で、正に生涯における黄金時代 (彼が欧州ツアーから帰国した1965年
5月以来、その活動は「飛ぶ鳥を落とすが如き」勢い) となったわけです。
諸兄はいかがですか。どの時代がいいと思います。なんです「どの時代もいい、絞る必要はない」
やっぱりそうですかね。
そんなところでつい前置きが長くなったが、こんな心境のウェスが1966年のラジオで応えた大変貴
重なインタヴューを紹介する。
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