ギター・ディスカッション
Guitar Discussion / Crescendo July, 1965 Jack Duarte Ike Isaacs Wes Montgomery Cedric West
 これを録音したレス・トムキンスは、90分間にも及ぶギターについてのディスカッションは実に 熱のこもった内容の濃いものだったといっていた。 ギタリストのジャック・デュアルテの自宅ではウェスを中心に、同じギタリストのアイク・アイザ ックス、セドリック・ウエストの他にアマチュアなど15人の一般ギタリスト達も参加しており、そ の模様の一部がクレッセンド・マガジンの1965年7月号に紹介されていた。 ジャック : ピックの代わりに親指を使ってどこまで演れるのかということで、肉体的限界がある       ことも解かりながらどのように自分の考えがまとまりスタイルが決まったのですか? ウェス  : うーん、難しいね。同じ疑問が他のスタイルの人達にもあてはまると思うんだ。  というのは、ある程度のことをするには進歩していかなくちゃならないからね。       でも、気持ちだけ先走りすることがありがちなんだけど、みんなそうならないよう頑       張って結果を出そうとしているんだと思う。       それで、肉体的限界に関しては、例えばジャンゴ・ラインハルトだけど、彼はハンデ       ィキャップを背負いながらも、全く健全なミュージシャン達よりいいプレイをしてい       たと思うが、人間誰しも何らかのハンディキャップを負っているんだから、そういう       表現は適切でないかも知れないね。       ( 訳注: ジャンゴは1910年1月23日にベルギーの郊外でジプシーの子として生まれ、   13歳でプロ入りし24歳で "フランス・ホット・クラブ5" を結成し本格的な           活動を始めた。しかし、それ以前の18歳のとき、ジプシーのキャラバン生活           で火災に遭い左足と左手を負傷しその時以来小指と薬指が利かなくなった。           12歳のとき、始めたギターは全くの独学で譜面は勿論のこと、自分の名前さ           えおぼつかない文盲であった。)        ジャック : でも彼が好んで演ったものではなかったよね? ウェス  : そう、ああするしかなかったんだ。僕には選択の余地があったが、もしピックを使っ       ていたらきっと今以上の進歩はなかったと思う。長年ピックを使っていても僕よりも       進歩していないミュージシャンもいるからね。       だから、肉体的なものよりも精神的なものだと思う。大事なのはプロセスなんだ。       取り組み方だよ。なぜなら、進歩は多種多様で理由などないからなんだ。       急いで頂上を目指すミュージシャンを見かけるけど、あまりにも急ぎ過ぎて結果なに       も得るものがなかったりする。       進歩はしているが、殆どの奴は何らかの技術不足のはずなんだ。完璧な奴なんて観た       ことも聴いたこともないが、何とか演っていくのに本当に必要な技術以上に持ってい       る連中もたくさん知っているが、全く必要な技術が不足している奴もいる。 ジャック : 自分の演りたいことをするのに合ったスタイルは、本能的に選ぶということだね。 ウェス  : ああ。でも、初めから親指を選んだわけではないんだ。単なる偶然だったんだ。       当時、親指でプレイするぞと決めた後もその方法で楽しんでいたが、もしプロのミュ       ージシャンになろうと決心していたなら、ずっとピックを使い続けていただろうな。       こんな風に思うのは当然だよ。もし自然な演り方を考えるなら、自然な形に従わなき   ゃならない。でも、僕は自分の楽しみで演っているのだから、どんな形にも取らわれ  ることはないんだ。       分かるかい。僕が使ってるスタイルはそんな風にして生まれたんだ。       何をするにもどんな制限も意識しないんだ。他の奴等が僕以外のことを演っているの       を僕は聴けるし、楽しめることもできるが、それを自分もしなければなんて思わない よ。