アイク   : 君のプレイにおおきな成長がうかがえるのはそういう訳だね。素晴らしい心構えだ。

ウェス   : もし誰かが別の演り方を見つけ出するのなら結構なことさ。というのは僕自身今まで
            にたくさんの演り方をみててきたのだから、きっと他にもあると思う。 
       その中には20年かかるものであれば、誰かがまた別の演り方を見つけ出してくれるだ
       ろうし、我々の知らないことなんていくらでもあるから色々と考えておかなきゃなら
       ないことがあるんだ。
       だから僕の演り方が一番いいといってもらいたいなんて思ったこともないし、それよ
       り誰かの方が僕よりも上手に説明するだろうから、まぁ、どうでもいいことだよ。

ジャック  : それは、才能に付随するものだと思う。我々は指の角度や力の入れ具合、手首の使い
       方といったことに自問自答を繰り返してきた。以前、私は君がどうやって親指を駆使
       しているのかを見極めようとしたことがあったんだけど、これはほとんど不可能なこ
       とだったよ。というのも、単に君のことが分らなかっただけで、君は自分のことを考
       えたことがあるの ?

ウェス   : 考えたよ。8、9年前だったかな。友達が言うには、『前から思ってたんだけど、ど
       のように親指が動いているか君は気付いているかい ?』って、それもひとつのヒント
       になった訳なんだが、というのはずっと左手のことばかり気にしていたから、上手く
       使えている右手のことなんて全く考えたこともなかったんだ。
       そこで、次のセットで何が起こっているのかを意識してみることにした。
       弾き始めて・・それから親指をみた・・そしたら止まったんだ。ちょっと見たただけ
       で弾けなくなったんだ。だから意識しないようにしたのさ。

アイク   : まるで誰かに、どうやって息をしているかって尋ねられているようなもんだね。
       つまり、考え得ることのない、自然な機能というか反射作用なんだね。
       そして君の左手のテクニックで私が気付いたのは正攻法ではないということなんだ。
       言い換えれば、自分の感じるまま、思ったままを基本に関係なく自由に弾いていると
       いうことだ。
       音を聴いて、親指はごく自然に反応し、プレイする。基本に忠実なギタリストの演奏
       法は君には全く無関係なことだね。

ウェス   : まぁ、誰がどんな楽器を使おうとかまわないんだけど、10回プレイするうち9回うま
       く能力を発揮できればいいほうだと思う。
       僕にも限界があって、それを超えれば解からない世界に入ってしまううので、難しい
       ことはしないようにしているよ。
       楽器にしても解からないことがあって、ある時はいい感じでうまく乗っていけそうな
       気がすることがあって、そのまま乗り切ってしまうこともあるんだ。
       そんなことって本当に調子のいい時だけだが、それがまた偶然かも知れないがバラッ
       ドを演ってる時なんだ。

アイク   : 君のスタイルが他とはかなり違っているというのは音楽にはっきり現れているよね。
       初めて君のレコードを聴いたとき、『これはかなりのものだ』と思った。
       聴いただけでは、どのように弾いているのか考えもつかなかったが、素晴らしいプレ
       イも加わって凄く満足感が得られたよ。

ウェス  : 我々は、自分とは違うスタイルと共演するとその人特有のサウンドに気付き『おや、
       どうやってあの音を出しているんだろう ?』と思うが、でも技術的にどうのこうのじ
       ゃないんだ。
       例えば、僕がチャーリー・クリスチャンを初めて聴いた時、どう考えていいか解らな
       かった。ジャンゴすら聴いたことがないのにクリスチャンはそれ以上惑わされたよ。
       僕は全くジャズを知らなかったが、彼の影響で興味を持つようになり、そのサウンド
       やアプローチが凄く気に入って新品のギターとアンプを買うことにした。
       彼はたぶん古いもので弾いてるんだろうなと思いながら、とにかくギターを手に入れ
       弾ける格好をすれば同じように出来るものと思っていたんだ。何の基礎も、何の知識
       もないのにね。で、ある音を出して見てこれは今までの人生の中で起こった問題より
       複雑だっていうことに気付いたよ。
       それ以上考えたくなかった。自分の未熟さが分かってしまうから。
       出来ないことでがっかりしたけど、でもヨーシとやる気もでてきた。
       世間にゃ、ギターを買って1週間ほどかき鳴らしたらもうやめてしまったというのが
       いるが、そういう奴は2度とギターには触らないんだ。ただちょっと演ってみようか
       なと思っただだけで、気まぐれってもんだ。 
       だが、プロにでもなればこれは全く別の世界だし、全てが真剣勝負なんだ。望もうと
       望むまいとね。

セドリック: でも、生まれながらに才能を持っている人もいるよね。ある2人を一緒にスタートさ
            せたら、どちらかが速く上手くなるだろうね。

ウェス  : 生まれつきの才能だって? おいおい、そのことについて今まで論議してきたんじゃな
       いか。天賦の才なんてものには、絶対に甘んじてはいけないないんだ。
      つまり--もし僕が生まれついての電子工学者で、初めて診るテレビを持ってこられ、
      どこが故障してるのか直ぐに分かってしまうようなものなんだ。
      でも、もし故障の原因を調べ、自分なりの理論で修理しなきゃならないのであれば、
      できる限りのことはやってみるがね。まぁ、長い音楽活動で僕は人々が才能というも
      のに敬意をはらうような場面でそれを見せていたのかもしれない。が、彼らがそこに
      達するまでの努力までは見ていないだろう。彼らは完成されたものしか見ていないん
      だから。こんな風に、みんな僕のことを誤解してきたんだ。
      だから、僕が寝ずに考えていた時のことや映画に行ってもスクリーンは観ているんだ
      が転調のことばかり聴き分けていたことなど、解かるかい? これはプレイに関して僕
      がどのようにして築き上げてきたかということなんだ。(訳注:譜面を読めないウェス
      が一番梃子摺ったもののひとつにこの【転調】があったという。)

ジャック  : たぶん、ギターを始めるのに人に教わったり教わらなかったり、音楽的知識があった
            りなかったり、といった人達がたくさんいるんだろ。
            どうしても君のようにプレイしたがっていても、努力しないから結局は脱落した連中
      を数人みてきたけど、彼らは絶対に君のようにはしないんだ。 
      でも君はやってきたよね。そして結果を生み出したのは何故なんだろう?
      それは天性の才能があったからなんだよ。君が自分自身に名を与えたのさ。
      だからそう言われるのじゃないの。

ウェス  : ちょっと侍ってくれよ。こうしよう。
      我々は何をするにしてもそれぞれが違った考えを持ってなくちゃならない。 
      でないと、誰もが同じ事をするようになってしまう。そうだろ。勿論別の考え方もあ
      るが、時に決意というものは自分の考えとは違った方向に進んでしまうこともあるん
      だ。でも常に確信は持っていないといけない。でなくて何を果たすつもりなんだい。

アイク  : 映画を観ていて転調したのが分かるといったよね。でも他の15人のギタリストにはサ
      ウンド・トラックしか聴きとれないかもしれない。
      君の持っている何かが誰れよりも優れているんだ。転調を聴き分ける潜在能力がある
      ということだよ。

ウェス  : まぁ、映画に行ってれば転調のことには解かると思うよ。
      言ってみれば僕は楽器に対する確信をきっちりと持っているということなんだ。
      ミュージシャンになる過程で必死に努力をしてきたっていうのが事実かもしれないけ
      どね。他にも色々な事があるが、でもとにかくどこまで通用するのかを見極めようと
      決めたんだ。
      そこで、ここにまだ一人前ではないけども自らの考えについて語る15人のミュージシ
      ャンが出てきたんじゃないの。話しを聞けば少しは比較できると思うよ。