プロローグ 足元の世界へようこそ
目の前で、小さな世界のちょっとしたバトルがくりひろげられています。
一匹のクロオオアリに数匹の小さなアリが立ち向かっているのです。
大アリ 「イテテテ離せってんだ!」
小アリ 「だれが離すもんか」
大アリ 「ッタクッなにしやがる」
小アリ 「おまえこそ なにしにきた」
大アリ 「ただ通りかかっただけじゃないか」 ![](images/0001.3D_HP.gif)
小アリ 「うそだ だまされるもんか」
大アリ 「テテテ…
やめろよ ここは天下の通り道
誰が通ろうと勝手だろう」
小アリ 「ここは我々の領域だ」
大アリ 「イテェなあ チビのくせにうるさいんだよ」
小アリ 「なに言ってるやがる 小さいと思ってバカにするな」
大アリ 「タクッ、わかった わかったわかったから離せよ」
小アリ 「いまさら なに言ってんだ」
大アリ 「ウセロー! チビども」
小アリ 「うわぁう ああ」
大アリ 「今だ あばよ」
小アリ 「逃げるか」
大アリ 「ヒエー まじい まじい 危ないところだったぜ」
小アリ 「敵 退散」
小アリ 「了解 通常任務に就きます」
大アリ 「いや まいった まいった」
小さなアリたちの攻撃をやっとこさ振りほどいて逃げだしたクロオオアリは、
少し離れたところで一息つき、ご自慢の触覚の手入れをしています。
おや、こちらのシバザクラの葉の上では、
三匹のアリたちが自分の体の何十倍もあろうかというイモムシを必死に引きずっています。
アリ1 「ウオー! やったぜ 大物だ!」![](images/0001.bmp3_.gif)
アリ2 「ウーントコ ヤッピッピー!」
アリ1 「おいおい そっちじゃねえよ」
アリ2 「こっちでいいんだよ」
アリ3 「いそごうぜ」
アリ1 「だから 引っぱるなって」
アリ2 「ウオーイショッこっちだって」
アリ3 「大物はいいが 重えなぁ」
アリ1 「ホラヨッてんだ」
アリ2 「イヨーっと」
アリ1 「だから こっちなんだよ」
アリ2 「いいんだって そら いくぞ」
イモ虫 「ヤメロー ヤメテクレー」
アリ3 「オットト トットッ」
アリ1 「いっけねぇ (ガブッ)」
アリ2 「びっくりした」
アリ1 「なかなか イキがいいじゃないか」
アリ3 「とにかく、いそごうぜ」
おやおや、三匹は協力しているようですが、
こんな風にそれぞれが思い思いに引っぱり合っていては、なかなか思うように進めないでしょう。
それに、イモムシだって必死です。
キュッキュッと体を大きくひねり、懸命の抵抗を示さないわけがありません。
あらあら、ついにシバザクラの茎に引っ掛かって、にっちもさっちも動かし運べなくなったではないですか。
アリ1 「なんだ コレ 重くなったぞ」
アリ2 「ウン どうしたんだ 動かない」
アリ3 「とにかく ひっぱれ」
アリ1 「イヨコラサ」
アリ3 「だめだ 動いてないぞ」
アリ2 「ホレみな こっちでよかったんだヨー」
アリ3 「おい、まずいぞ」
アリ1 「ちっ、こんな時に」
アリ2 「大丈夫だ 追っぱらっちまえ」
アリ3 「ウワオ」
アリ1 「あっち いけ! くるな」
アリ2 「去れ!」
突然、空からハチが襲いかかってきたのです。![](images/00031_3D_2.gif)
でも、アリの先制攻撃に驚いた様子で、
パッと身をかわし、上空でゆっくりと旋回しています。
まだまだその場を離れる気配がありません。
どうやらそのハチのお目当てもイモムシのようです。
大事な獲物を取られたら大変です。
アリたちも懸命ですが、どうしてもその場から動けません。
あっ、またハチが急降下してきました。
ところがアリの動きもすばやいこと、獲物から口を離したかと思うと、
アゴを突き構え、ハチが接触するすきを与えません。
これではかなわないと、ハチはまた上昇しました。
アリたちも、なんとかこのすきにと、
必死に獲物を引っぱっているのですが、やっぱりだめなようです。
こんな風に、何度も何度もお互いに牽制しあってもう十分、
このイモムシ争奪戦はまだ続いています。
あれ、今度はハチが作戦を変えたのでしょうか。
少し離れたシバザクラの上に着地しました。
そうして相手の動きをうかがっているようです。
あっ、ゆっくり動き始めました。
至近距離から飛びつこうというのでしょうか。
おっと、やっぱり失敗でした。
アリの方が一瞬速く先回りして、首尾よく横取りされるのをくい止めました。
ハチはいったん飛び立ったのですが、どうしてもそれを手に入れたい様子です。
また、反対側から猛攻撃をしかけようと狙っています。さあ、突進です。
ところが、こんな風にどんなにハチが接近しようと、アリたちはひるみません。
とうとうハチはあきらめて、どこかに飛んでいってしまいました。
足元の小さな世界で黙々と生を営んでいる昆虫たち。
そんな彼らに思わず言葉を想像してしまうほど、その世界に入り込んでしまっていたのは、
小学五年生のKと、その母親のMでした。