メールマガジン 『タオの風』 


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______/ 荘子・山木篇  ___________


1、狙う者と狙われる者 〜(1)栗林 〜          〈その1〉
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荘周遊乎雕陵之樊     荘周、雕陵(ちょうりょう)の樊(はん)に遊び、
睹一異鵲自南方来者    一異鵲(いじゃく)の南方より来る者を睹()る。
翼廣七尺 目大運寸    翼の広さ七尺、目の大きさ運寸。
感周之[桑+頁]      周の[ひたい]を感(かす)める。
而集於栗林        而して栗林に集まる。
荘周曰 此何鳥哉     荘周曰く、此れ何の鳥ぞや。
翼殷不逝         翼殷(おお)いなるも逝かず、
目大不睹         目大いなるも睹()ずと。
蹇裳[カク]歩       裳(しょう)を蹇(かか)げて[カク]歩し、
執弾而留之        弾を執()りて、而してこれを留るる。
睹一蝉方得美蔭      睹ると、一蝉(ぜん)(まさ)に美蔭(びいん)を得て
而忘其身         その身を忘る。
[ロウ]執翳       蟷(トウ)[ロウ]、翳(かげ)を執(まも)りて
而搏之          これを搏(とら)えんとし、
見得而忘其形       得を見て其の形を忘る。
異鵲従而利之       異鵲、従いてこれを利とし、
見利而忘其眞       利を見てその真を忘る。
荘周[ジュツ]然曰     荘周、[ジュツ]然として曰く、
噫 物固相累       噫(ああ)、物は固(もと)より相累(るい)し、
二類相召也        二類は相召(まね)くなりと。
捐弾而反走        弾を捐()てて反(かえ)り走る。
虞人逐而[言+卒]之    虞人(ぐじん) ()いてことを[]む。
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荘周は雕陵(ちょうりょう)の丘のいけがきのあるあたりで遊んでいた。
一羽のカササギとは異なる鳥が南の方から来るのに目を見張った。
翼の広さは七尺もあり、目の直径は一寸もあった。
周の額をかすめていった。そうして栗林に集まった。
荘周は言った。「これは何という鳥だろう。
翼は豊かだが飛び去ろうとせず、目は大きいのに見ていない。」
衣裳のすそをまくりあげて足ばやに歩みより、
(たま)を手にとったがそれをそのまま留めていた。
よく見ると、一匹のセミがちょうどよい木蔭を得て、わが身のことを忘れている。
カマキリがかげにひそんで(セミを)つかもうとしていて、
獲物だけを見て、そしてその形(構図)のことを忘れている。
カササギとは異なる鳥は従ってこれを有利として、
その利益だけを見て、そしてことの真相を忘れている。
荘周はヒヤリとして言った。「ああ、物はもともと互いに次々に連なるものだ。
(狙うこと)と害(狙われること)という二つのことは、互いによびあうものだ。」
(たま)をすてて、反対に向かって走った。
栗林の番人が追いかけてきて、そしてこのことを厳しく責めたてた。



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┃▼ 荘周遊乎雕陵之樊 ┃
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荘周は雕陵(ちょうりょう)の丘のいけがきのあるあたりで遊んでいた。
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*【雕陵】は、丘陵の名前。

*【樊】の上部は「林+交差のしるし」からなり、枝を×型にからみあわせることを
示します。「樊」はそれと左右の手をそらせたさまを合わせた字で、
枝を(型や)型にそらせてからませること。まがき。いけがき。


◆「樊」は「藩」のことで、「栗園の[かき]の内に遊ぶこと」としていたり、
「狩りを楽しんでした」と意訳いているものもあります。


◇「まがき(いけがき)」のところで遊んでいたということで、この時点では、あく
までも、「まがき(いけがき)」の外にいたものと思われます。


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┃▼ 睹一異鵲自南方来者 ┃
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一羽のカササギとは異なる鳥が南の方から来るのに目を見張った。
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*【睹】の者は、柴をもやして火力を集めるさまで、ひと所に集中する意を含みま
す。「睹」は「目+音符者」で、一点に視線を集めること。


*【鵲】は「鳥+昔」。ちゃっちゃっと鳴く声をまねた擬声語。かささぎ。

◆「異鵲」を「異様なカササギ」としているものあります。

◇後から、「何という鳥だろうか」と言っていることからして、この鳥は、カササギ
とは似てはいるが、違う鳥とみなしました。


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┃▼ 翼廣七尺 目大運寸 ┃
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翼の広さは七尺もあり、目の直径は一寸もあった。
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*【尺】は、長さの単位。一尺は十寸。22.5cm(日本の30.3cmとは違う。)

*【運】の軍は、戦車でまるくとり巻いた陣だて。
「運」は「しんにょう(足の動作)+軍(めぐる)」で、ぐるぐるまわること。


◆「運」は「径」の意としています。

◇「ぐるぐるまわる」で「円周」のようにも思いましたが、大きさのバランスから
いって、「直径」の意とも思われ、通説に従うことにしました。


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┃▼ 感周之[桑+頁] 而集於栗林 ┃
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周の額をかすめていった。そうして栗林に集まった。
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*【感】の咸は、戈でショックを与えて口をとじさせること。「感」は「心+咸」で
心を強く動かすこと。強い打撃や刺激を与える意を含みます。


*【[桑+頁]】は、「頁+桑」で、ひたい。

◆「集」を「とま・る」と読んで、「とまった」としています。

◇鳥が栗林に行っただけでなく、荘周もこの時はじめて、「いけがき」を越えて栗林
に入っていき、そこで「集まった」という表現になったのではないかと思います。


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┃▼ 荘周曰 此何鳥哉 翼殷不逝 目大不睹 ┃
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荘周は言った。「これは何という鳥だろう。
翼は豊かだが飛び去ろうとせず、目は大きいのに見ていない。」
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*【殷】は、おおい。中身がつまっておおい。ゆたかなさま。

*【逝】は、ゆく。さる。いってしまう。思いきってたち去る。

◇荘周の存在がまったく目に入っていないかのようです。

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┃▼ 蹇裳[カク]歩 執弾而留之 ┃
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衣裳のすそをまくりあげて足ばやに歩みより、
(たま)を手にとったがそれをそのまま留めていた。
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*【蹇】は、かかげる。衣服のすそを上にあげる。

*【[カク]】は、「足+[カク](かこんでつかむ)」。「カク歩」で「足ばやに歩
く」。


*【執】は、「手かせ+人が両手を出してひざまずいた姿」で、すわった人の両手に
手かせをはめ、しっかりとつかまえたさまを示します。


*【弾】は、たま。はじきだま。はね飛ばすたま。

*【留】の上部はもと戸を押しあけるさまの上に―印を加えて、あきそうになる戸
や窓を押さえてとめることを示します。「留」はそれに田(一定の面積の地)を加
えた字で、動きやすいものをある場所の中にしばらくとどめることを示します。


◆「執弾而留之」を「弾弓(はじきゆみ)を手にとるとそれを引きしぼって射止めよ
うとした」「カササギ狙って矢をつがえた」などとしています。


◇「弓」をもっているのは、狩りを前提にしているということです。ここでは、
狩りをしていたのではなく、その場にあった「石」か何かを「弾」にしよう
としたのだと、私は考えます。


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┃▼ 睹一蝉方得美蔭而忘其身 ┃
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よく見ると、一匹のセミがちょうどよい木蔭を得て、わが身のことを忘れている。
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*【蝉】は、せみ。せみ類の総称。

*【蔭】は、。「艸+陰(ひかげ、くらい、中にこもる)」。}かげ。草木のかげ。
また、ひかげ。


◇「美蔭」というのは、少し日本語にしにくいところですが、「ちょうどよい木蔭」
ということにしました。


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┃▼ 蟷[ロウ]執翳而搏之 見得而忘其形 ┃
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カマキリがかげにひそんで(セミを)つかもうとしていて、
獲物だけを見て、そしてその形(構図)のことを忘れている。
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*【蟷[ロウ]】は、「蟷螂」と同じく、カマキリ。

*【翳】の上部の字(音エイ)は、矢を箱の中に隠すことをあらわす会意文字。
「翳」はそれを音符とし、羽をそえた字。
かげ。かげり。ものにおおわれてできたかげ。


*【搏】は、とる。つかむ。ぱっと手のひらを物に当ててつかむ。

◆「形」は「体」としています。

◇迷うところではありますが、「狙う者が狙われる者になる」という自然の掟の
ような「構図」のようなこととして受け取りました。


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┃▼ 異鵲従而利之 見利而忘其眞 ┃
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カササギとは異なる鳥は従ってこれを有利として、
その利益だけを見て、そしてことの真相を忘れている。
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◆「真」を「本来の在り方」としています。

◇しかし、これは自然界にある「本来の姿」であり、その訳には納得いきません。
荘周のひたいをかすめていったということで、人が近くにいるという「真相」を
忘れているというふうにとりました。


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┃▼ 荘周[ジュツ]然曰 噫 物固相累 二類相召也 ┃
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荘周はヒヤリとして言った。「ああ、物はもともと互いに次々に連なるものだ。
(狙うこと)と害(狙われること)という二つのことは、互いによびあうものだ。」
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*【[ジュツ]】の右の字は、穀物がへばりついて茎からはなれないさま。
「心+[右の字]」で、心が何かにへばりついて去らないこと。
[ジュツ」然」は、気がかりでひやりとするさま。


*【噫】の意は、「音(口をふさぐ)+心で、黙って心の中におさめたため、胸が
つかえることを示します。「噫」は「口+音符意」で、胸がつまって出る嘆声。


*【累】の上部はもと田三つで、ごろごろとつみかさなったさまを描いた象形文字。
それを音符とし、糸を加えたのが「累」のもとの字で、糸でつなぐように、
つぎつぎと連なってかさなること。


*【召】は、刀は、弓なりに曲線を描いた刀。召は「口(くち)+刀」で、
口でまねき寄せること。まねく。まねき寄せる。


◆「累」を「害す」として、「すべて互いに害しあうものだ」と訳されています。

◇「累」の原義に従って「次々に連なってゆくもの」という訳にしました。

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┃▼ 捐弾而反走 虞人逐而[言+卒]之 ┃
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(たま)をすてて、反対に向かって走った。
栗林の番人が追いかけてきて、そしてこのことを厳しく責めたてた。
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*【捐】は、すてる。のぞく。不要な部分をすてる。また、取りのぞく。

*【虞人】は、。官名。山林や沼沢のことをつかさどった。

*【逐】は、。あとをつけて、一歩一歩とおいこむ。おいつめる。
また、あとをおいかける。


*【[言+卒]】は「言+卒(こまかい、はやい)」で、たてつづけに早口でいうこと。
こまごまとものを言う。せめる。たてつづけに文句をいう。問い正す。


◇結局、荘周も「狙われるもの」であったわけですね。

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