白いスカーフをあなたに

     旅立ちから、117日目。ネパールに来て、もう1ヶ月と10日ほど経った。
    俺は、タメルのカフェで、一人でラッシーを飲みながら、古本屋で買った、小説を読んでいた。
    タメルには、日本の古本が売っているので、よく利用した。
    読み終わった本をその古本屋に持っていくと、半額だったかな?引き取ってくれるので、読み終わった本が、かさばることなくて、図書館で本を借りるような感覚で、利用していた。
    旅行者にとっては、ありがたいシステムだ。

     本を読む手を止めて、ふと、前を見ると、Guriちゃんがいたので、「おはよう。」と挨拶をして、彼女の席へと、移動した。
    guriちゃんは、俺が昨日あげた、ターコイズと赤い紐のアクセサリーを身につけていた。
    このアクセサリーは、ボダナートへ行ったときに、自分用に作ってもらった物だったが、どうも俺には似合わず、似合いそうな人にあげようと、Guriちゃんにあげた物だ。

    Guriちゃんが、2杯目のミルクティーを飲み終えると、俺達は、買い物へと行った。
    彼女は、あさってに、ネパールを発つので、荷物を入れるための大きなカバンを買うと言っていた。
    俺は、今まで履いていたクツが、もうボロボロなので、買い換えようと思っている。

    ジョッチェンにて

     Guriちゃんが、探していた大きなカバンは、タメル内の店で、すぐに見つかった。
    布製の大きなカバンです。
    彼女は、俺とは違い、バックパッカー旅行じゃないので、お土産など、荷物が多そうです。

    次は、俺のクツだが、タメルで探していたが、どこも値段が高すぎるので、ダルバール広場近くの、ニューロードへと行くことにした。
    この時、リキシャーで行くことにしたが、guriちゃんは、今日がリキシャーに乗るのが、初めてだと言って、
    無邪気に目を輝かせていた。

    ニューロードに着き、数件のクツ屋を見てまわり、俺の意見を聞いて、Guriちゃんが選んでくれたクツを、1200Rsで購入。
    この後、俺達は、プリンが美味しいと評判のジョッチェンのスノーマン・カフェへと向かった。
    ところが、向かっている途中に、突然の大雨。
    道路は、一気に、茶色い川となった。
    この時期のネパールの天気は、気まぐれで、気分次第で、晴れたり、曇ったりって感じです。

     俺達は、売店の軒先で雨宿りをするが、雨はいっこうに止む気配はない。
    雨宿りをしている建物の3階が、ネット屋だったので、時間つぶしのため、二人はネット屋へ。
    店内は、冷房が効いていて、雨に濡れた二人には、少し肌寒かった。
    窓から、外を見ると、小さな滝のように、水が流れ落ちていた。

    リキシャーとリキシャーの背面

    15分ほどネットをしていたら、雨は小雨に変わったので、僕達は、ネット屋を出て、ジョッチェンのスノーマン・カフェへと向かった。
    雨は上がったが、道路は、水たまりがあり、ぬかるんでいる。
    そんな、泥だらけの道を歩いていたため、guriちゃんの薄いピンク色のスカートには、飛び跳ねた、小さな泥が、いくつも付いていた。

     スノーマン・カフェに着き、お目当てのプリンを二つ注文。
    「美味しいけど、甘すぎる。」なんて言いながら、プリンを食べ、お茶を飲んだ。
    このまま、もっと話しをしたかったが、夕方、他の人と会うことになっていたので、店を出て、再び雨が降る中、リキシャーに乗って、タメルのスーパーマーケットの前で、リキシャーを降りて、俺はGuriちゃんに「明日、ボダナートの絵を見せるから、6時にふる里の前で。」と言って、別れた。

     そして翌日。旅立ちから、118日目。
    岩崎さん達と昼ご飯のダルバートを食べた後、俺と岩崎さんは、あちこちブラブラ。
    何をしていたのか、覚えていないが、夕方の6時前には、一人になっていた。

    宿へ戻り、スケッチブックを持って、guriちゃんとの待ち合わせ場所のふる里前へ行くが、彼女は、まだ来ていない。
    10分が経ち、20分が経ち、そして、30分が経っても彼女は、現れなかった。
    来ないのだろうか?いつまで待とうか?どうしようか?
    忘れているのだろうか?来る気がないのか?

    左:アカシュハイラブ寺院 右:インドラ・チョーク付近

    考えていても、仕方がないので、俺は、彼女が泊まっているホテルへ行き、メッセージをフロントに預けて、再び、ふる里前で待っていた。
    さらに、15分が経ち、「もう来ないだろう。」と諦めて、帰ろうとしたら、Guriちゃんが現れた。
    Guriちゃんは、予約していたマッサージが遅れて、こんな時間になったと言っていた。

    「ご飯、何にする?」と聞くと、彼女は日本料理屋の一太に、行ってみたいと言うことで、僕達は、日本料理屋の一太へと向かった。
    店内は、思っていたよりも小さく、席に着いた俺は、メニューを見て、guriちゃんは、手のヘナを落としてくると言って、トイレへ。
    戻ってきたguriちゃんは、「肉が食べたい。」と言ったので、俺は、「肉ならば、ステーキを食べない?」と彼女に言い、彼女は頷き、僕達は、一太を出て、エベレスト・ステーキハウスへと向かった。

    僕達は、ネパールでの旅のことなどを話したり、店員が、俺達に話しかけてきて、なんやよく分からない会話をしたりと、楽しかった。
    Guriちゃんには、3日前の暗さは、無く、彼女本来の姿なのだろうか?
    そこには、明るくて、元気な姿しかなかった。

    僕達は、とても大きなステーキを完食することが出来ずに、9時過ぎに、店を出た。
    そして、デザートには、ちょっと高そうなカフェで、アイスクリームを食べ、その帰り道。
    「ありがとう。」とGuriちゃんは、俺に言った。
    俺は、この「ありがとう。」の意味が、今夜の夕食のことではなく、この4日間に対しての「ありがとう。」ではないだろうかと思った。


    そして、いよいよお別れだ。
    Guriちゃんは、明日の早朝、飛行機に乗って、タイへ行き、そして日本へと帰国する。
    「あげたターコイズのアクセサリー、似合ってるで。日本でも会えれば良いな。」と言って、俺は彼女の肩に白いスカーフを掛けた。
    これはチベット式のお別れの仕方です。
    「あなたが、無事に帰国し、そしていつか会えることを願って。」
    そう言って、Guriちゃんと握手をして、僕達は別れた。
    夜の10時頃だった。

     彼女と出会えたことによって、僕もネパールでは、良い想い出が出来ました。
    俺こそ、ありがとう。
    そして、サヨナラ、ネパール。




    サヨナラ、ネパール(インド入国)

     旅立ちから119日目。
    僕は次の行き先、インドへと行くために、ネパール東にある、カカルビッタという街までのバスチケットを買った。カカルビッタから、インドに入国して、シッキムへ行く。出発は4日後だ。

    最近のカトマンドゥは、またもや雨が多くなってきました。
    洗濯物が乾きにくくて、困りますよ。
    でも、次の行き先のインド・シッキムは、ここよりも、雨が多いらしい。
    1ヶ月以上もカトマンドゥに滞在していたため、出会いも多く、ここで出会った旅人と別れを済ましたり、出発の準備をしたりと、何かと忙しい4日間になりそうです。

    もうネパールでやりたいことは何もありません。
    買い物もしたし、俺なりに行きたい所へも行ったし。
    今度、ネパールへ行く機会があれば、体調万全で山に登りたいです。
    ここ数日、日記を書いていなかったので、今はそれに追われています。

    ネパールでは、旅というものが移動を繰り返し、街から街へというものならば
    俺はネパールでは、旅と言うものをほとんどしていません。
    カトマンドゥでは、たくさんの人と出会いました。そして色んなことを話しました。
    そのことによって、人を知り、自分を知りました。
    それもまた旅だと言うのならば、俺は旅をしていたのだと思います。

    タメルの宿の部屋にて

     そして、旅立ちから123日目。
    今日、カトマンドゥを出て、バスでカカルビッタへ行きます。
    そして明日には、インドに入国し、シッキムへ。
    今日から久しぶりの一人旅です。
    インドです。どうなるんでしょうか。楽しみです。

     午後5時前に、カトマンドゥから、インドと国境の街、カカルビッタへ向かうバスは、動き出した。
    ニューバス・パークまで、見送りに来てくれた、岩崎さんとmakiちゃん、どうもありがとう。

     俺にとって、ネパール滞在は、なんだったんだろうか?
    チベットから、ヒマラヤを越え、カトマンドゥのタメルに到着したときは、物質の豊かさ、食の豊かさに驚き、嬉しくなったが、そんな熱も、1週間ほどで、冷めてしまったのを覚えている。
    写真も、最初の頃は、いつも以上に撮っていたが、いつしかカメラを持ち歩くことなく、街を歩き出していた。

    チベットのラサで、出会った人達とも再会したが、これは自分にとっては、楽しい再会とは、ならなかった。
    そして、カトマンドゥでは、新しい出会いもあった。
    ヒマラヤ越えを共にした、watta君&mariちゃんと、本格的に話すようになったのは、カトマンドゥに着いてからだし、同じく、シガツェで出会い、ヒマラヤ越えを共にした、ko君とも、うち解けたのは、カトマンドゥに到着してからだった。

    バクタプルのダルバール広場と操り人形

    watta君&mariちゃんとは、入国してから、1週間ほど、同じ宿だったので、夕食を食べに行くことが多く、楽しかったし、インドビザも一緒に取りに行った。
    ko君とは、ネパール滞在中、一番長く、一緒に居た人で、二人で昼間から、ビールを飲みながら、話しをしたり、CD屋に入り浸ったり、病院へ着いていったりと、バクタプルでは、宿の屋上で、ビールを飲んだりと、一日中、一緒にいることは、ほとんどなかったが、毎日に近いくらい、会っていた。
    yukiちゃん&kaoruちゃんとは、ko君と一緒に居るときに出会い、よく4人で、酒を飲んでいた。
    この人達と出会わなければ、俺のネパール滞在は、どうなっていたのだろうか?
    ほんと出会えて良かったです。

    そして、岩崎さんとの、実に7度目の再会もあった。
    お互い、久しぶりに会ったのに、話すことは、旅の話しではなく、好きな人の話ばっかりだった。

    最後は、ko君のお別れ会の時に、出会ったGuriちゃん。
    一緒にボダナートへ行ったり、大雨の中、リキシャーに乗ったりと、あなたといた4日間は、すごく良い想い出になり、俺のネパール滞在に、終止符を打つことができました。

    そんなことを、バスの中で、音楽を聴きながら、ボケッと車窓の風景を眺めながら、思っていた。

    バクタプルにて

     検問渋滞のため、バスは予想以上に進まない。バスを降りて、タバコを吸い、道路の先を見ると、車の長蛇の列が続いている。やっと、検問渋滞を抜けると、バスは快調に走り出した。
    夕食休憩は、20分ほどあって、俺は、食堂でチョウミン(焼きそば)を食べた。
    道路状態は、あまり良くなく、山道は、かなりの悪路だったが、チベットと比べると、まだマシな方だった。
    そして、日は暮れ、夜になっても、バスは走り続けた。

    真夜中。何時頃かは、解らないが、長時間の渋滞に巻き込まれた。
    バスが停車すると、車内は、暑さと熱気で、暑くなり、汗が流れるように、あふれ出してきた。
    車内の灯りが消えると、頼れるのは、道に出ている、屋台のロウソクの灯りだけだった。
    俺は、この環境の中、眠るように心がけたが、ジワジワっと汗が噴き出してくると、なかなか眠れなかったが、久しぶりの移動で、疲れていたのか、3時間ほど、浅い眠りについた。

    バスが出発すると同時に目が覚めた。
    結局バスは、4時間ほど、渋滞に巻き込まれていたようだ。
    その後も検問のための停車がいくつかあったが、いずれも短時間で済んだ。
    そして、いつの間にか、夜が明け、日は昇り、朝になっていた。
    その間もバスは、東へ向かって、走り続ける。
    隣に座っている兄ちゃんが、何度も俺にもたれかかり、かなりウットーシー。

    バクタプルにて

     バスが、国境の街、カカルビッタに到着したのは、出発から約24時間後の午後5時。
    ネパール側のイミグレーションは、もう閉まっていると、何人かのネパール人に教えてもらっていたが、俺は、現在のネパール・ルピーでの所持金が、たった100Rsしかなく、今日中にどうしても、インドに入国して、シリグリと言う街まで行きたかった。

    どうなるかは、解らないが、とりあえずネパール・イミグレーションまで行き、誰かいるかもしれないと思い、大きな声で、「ハロー!ハロー!」や「ナマステ!ナマステ!」と叫んでみた。
    運良く、人がいて、パスポートにスタンプを押してもらい、無事にネパールを出国することが出来た。

    イミグレーションを出ると、ジープ・タクシーが待ちかまえており、シリグリまで、500Rsで交渉が成立し、そのジープに乗って、今度は、インド側のイミグレーションへ行った。
    係員に、いろいろ質問されたが、適当に答えて、パスポートにスタンプを押してもらい、無事にインド入国。
    カカルビッタから乗ってきた、ジープに乗って、シッキム州への玄関口となる街、シリグリを目指した。

    インドに入国した途端、道路がいままでの砂利道から、アスファルトへと変わり、非常に道路状況は、良くなった。周囲には、茶畑が広がっている。ここも紅茶の産地なんだ。
    そして、本当にネパールを出たんだと、この時、実感した。
    たくさんの出会いがあった、ネパールよサヨナラ。

     人生初のインドでの、最初の街、シリグリに到着したのは、インド時間の午後7時。
    宿も決めず、リュックを背負ったまま、シッキム州のパーミットを取りに、SNTバスターミナルにある、シッキム州観光局へ行くが、今日はもう閉まっていた。
    近くにいた警備員が、州境のランプーという所で、パーミットが取れると教えてくれたので、そうすることにして、ジープタクシーの運チャンに、宿に連れて行ってもらった。

    宿は、1泊=175ルピー(Rs)で、部屋は、まぁキレイでもなく、汚くもないし、1泊だけなので、ここに泊まることにした。カカルビッタから、俺をここまで運んでくれた、ドライバーにお礼を言い、インド・ルピーで500Rs(約1,250円)を払った。
    これが高いかどうか知らないが、両替所に連れて行ってくれたり、宿に連れて行ってくれたりと、そんなに距離は離れていないが、初めての国で、最初の街での煩わしいことが、おかげで、スムーズに済んだ。

    シリグリ郊外の風景

     これでやっと、落ち着いた。
    そしたら、腹が減ったので、俺は、シャワーも浴びず、排気ガスまみれの服と顔のまま、食堂へ行き、インド初の飯、インドカレーを食べた。
    美味しいーーー!、ネパールのダルバートより、インドのカレーの方が美味しいです。
    疲れた体に、スパイスがしみ込むように、汗が止まらない。

    部屋に戻り、アルコール度数8度のキング・フイッシャー・ビールを飲み、疲れ切った体をいたわることなく、ベッドに沈むように、眠った。

    1インド・ルピー(Rs)=約2.5円