17時間の移動(上海〜福州)

     列車の出発時間は16時31分。
    どれくらい前に、駅に着いておけばいいのか分からず、出発の2時間前には、駅に着いてしまっていた。
    こんなに早くに着くとは思っていなかったが、着いてしまったのでしょうがない。中国の列車事情は、蘇州から上海へ行ったときに、なんとなく理解できたが、今回は、寝台列車なので、不安に感じ、早めに駅に着いておこうと思っていたが、2時間前は、どう考えても、やはり早すぎた。

     乗客は、駅内へ入るときに簡単な荷物検査を受け、切符を係員に見せて、中に入ることができる。
    蘇州駅とは違い、近代的に整備された上海駅だが、エスカレーターを登り、改札がある中央待合室のような所へ行くと、やっぱり中国だなという光景を目の当たりにした。

    フロアはとても広くて、天井も高い、この待合所には、いくつも列をなすベンチに、人々が出発の時間を待ちわび座っている。その人々の横や足下には、いくつもの大きなカバンが積み上げられていたり、またはゴミが散乱している。
    そんなことに気にもせずに、トランプに熱中している人達もいる。
    この人達は、いったい何時間ここで列車を待ち続けているのだろうか?
    いくら早くに来ても、列車の出発時間は変わらないし、寝台車は指定席のはず。
    不安なのは、俺も同じで分かる気がするが、ここの人達は、決められた時間、決められた場所という、都市のリズムを理解していないような気がしたし、どんなに気取ったり、洒落たモノを作ろうが、建てようが、人々の生活習慣は、そう簡単に変わるものじゃないなと、感じてしまった。

    そして家族連れもよく見かけたが、中国は一人っ子政策実施中ということもあり、やはり一人っ子が多い。

    上海駅

     まだ座るところが決まっていない俺は、リュックを背負ったまま、待合所のエリア内にある売店で、晩飯のためのカップ・ラーメンを3元5角で購入し、空いているベンチを探し、そこにリュックを置き、その隣に座った。
    上海は、アジアを代表する都市だけあって、観光客の数は半端ではない。
    そして交通の要所でもある上海駅にいる中国人の数も半端ではない。
    中国の黄金週間に重なったということもあるが、この人民大移動は、動物が群をなして移動するのと似ている様な気がする。

     出発の30分前、午後4時に、やっと改札が開き、皆さん押し合いながら、我先にと改札口に駆け寄ってきたので、改札口は混乱しきっている。
    そんなに急いでも、何も変わらないのに、ただ疲れるだけやのに、ほんまにもぅー。

    俺は、そんなヤツらを涼しい顔で見ながら、ゆっくりと寝台車両へ行き、指定された自分のベッド、3段ベッドの1番上には行かず、下段に座り、あつかましくも、下段のベッドと床の間にリュックを置き、話しかけてきた、周りのおっちゃんと筆談を開始した。
    中国に来て、まだ10日くらいしか経っていないのに、俺が日本から持ってきた小さなノートは、もう半分くらいのページが、中国語や俺が書いた漢字で埋め尽くされている。
    同じ漢字文化圏の国同士、理解できる言葉もあるが、やはり理解できない言葉の方が多かった。

     16時31分。列車は定刻通り発車した。
    「あーこれで本当に上海とお別れなのか。」たくさんの人と出会い、楽しすぎた上海。
    本当に忘れられない都市になってしまいました。また来たいよ、上海。
    中国人のオッサン達と数分前に筆談を終えた俺は、窓の側のイスに座り、曇り空の上海の風景を見つめていた。

    福州にて

     晩飯のカップラーメンも食べ終わり、列車内ではやることもなく、車窓からの景色をただぼんやりと見続けていた。
    今はどのあたりなのでしょうか?田圃が多くなり、民家が中国の時代劇に登場するような、周庄でも見ていたような、黒い屋根瓦と白壁の家が所々に見えた。
    出発してから2時間半。やっと、火車(列車)が停車した。
    「今どこだ?」と駅のホームに目をやると「杭州」って書いてある。
    まだこんなところか。俺は列車を降り、ホームに出てタバコを1本吸って、席にもどった。
    あと14時間半もこの列車に乗っていなければならないのか。
    17時間の移動。もしこれが日本だったら、どこからどこまで行けるのだろうか?

    昨日の夜に飲むつもりで買った缶ビールでも飲んで、もう寝よう。
    上海では隣のオッサンのいびきがうるさくて、あんまり眠れなかったし。
    しかし、車内も照明が明るくて、人々がうるさくて眠れない。
    俺は上段のベッドに横になったまま、しばらくボッーとしていた。
    夜の10時になり車内は消灯。なかなか寝付けなかったが、目が覚めたら翌朝の5時。
    あと4時間で福州に到着する。

    列車は杭州を発車してからは、内陸へ向かって進み、そして今は、沿岸部にある福建省の省都、福州へ向かって、山々をすり抜けるように走っています。

     時間は午前9時になり、車内は慌ただしくなってきた。
    そろそろ到着する時刻のようなので、みんな降りる準備を始めだした。
    やっと福州に到着するのか。福州と言う街は、どんな所なんでしょうか?
    ガイドブックを読んでみたが、これから向かう街なのに、現実感はわかない。
    福建省、上海よりも暑い場所、ウーロン茶。それくらいだ。

     列車は、ほぼ予定通り福州に到着した。
    待ちわびていた乗客が、車内の廊下に列をなし、次々と下車してゆく。
    俺も列に加わり、列車を降り、17時間の移動を終え、駅を後にした。
    駅から出ると、客引きがしつこいのだろうか。などと思っていたのですが、誰も俺に声なんてかけてきません。よかったーと思う反面、少し寂しいです。

    福州の街

     俺は荷物を背負い、ガイドブックに載っている安ホテルを目指して歩き出した。
    福州は想像していたよりも都会だ。さすが福建省の省都だけのことはある。
    と感心し、ガイドブックに載っている安宿を目指し、地図を見ながら歩いていたが、元々方向音痴な俺は、すっかり道に迷ってしまい、歩くのを諦め結局タクシーに乗る羽目になってしまった。
    初乗りは8元。上海よりも2元安い。そしてタクシーのメーターは上がることなく、目的地に到着。

    ホテルの中へ入り、覚えたての中国語で単人房(シングル・ルーム)は空いてますか?と聞くと、
    ここは中国人しか泊めることの出来ないホテルなので、外国人のあなたを泊めることは出来ない。と言われた。
    しかし、ここはガイドブックに載っている安ホテルです。
    そんなはずはないでしょう。と俺はホテルの人にガイドブックを見せてみると、ホテルの人は「なんでこのホテルが外国のガイドブックに載ってるの?」と怒ってましたよ。地球の歩き方さん。ここのホテルの名前は『永安飯店』
    ここには外国人は泊まることが出来ません。(2002年当時)

    泊まれないものは、しかたがないので、ここのホテルの人に、近くのホテルを紹介してもらったが、1泊=600元もする高級ホテル。
    当たり前だが、こんな高いところには泊まれません。
    もう一度、永安飯店に聞きに行き、今泊まっているところを教えてもらいましたが、1泊=180元です。

    俺もすっかりこの暑さに負けてしまい、チェック・インしました。
    さすが南へ来ただけのことはある。今日から俺は半袖。

     長かった移動も終わり、やっと落ち着いた俺は、早速、福州の街をブラブラと歩き出したが、さすが南に来ただけのことはあって、暑すぎて、すぐにダウン。
    お茶屋へ行き、頼まれていた福建省烏龍茶葉をいくつか買い、そしてもう部屋に戻って、休もうと
    俺は、大量のピスタチオと紹興酒と水を買い込み、部屋に戻った。

    昨日からの移動で、今日はもう疲れたが、やっと俺の旅が旅らしくなってきました。