パート5までウェス・モンゴメリのことを書いて、改めて彼の凄さを認識した。 70年代を思い出すに「ウェスのファンです」と言ったら、「軽めが好きなんですね」と言われた事 があった。 その言葉の意味を考えると、ジャズ・ミュージシャンでありながらポップ・ミュージシャンにみら れていたというのが大まかなところであろう。 しかし、時代は移りその言葉がいまもなお妥当であると考える人がいたとするならば、多様化し続 けてきた現在のジャズにおいてその言葉はかえって時代錯誤なものといえる。 ジャズに限らずその時代に沿った流行というものは、ある種同じ考えと同じ行動に統一されがちで あり、そこから外れるとアウトロー的な処遇を受ける事になる。 受けながらにも、晩年ウェスは闘った。それは彼が自分の音楽に対する拘りではなく生活のためで あり、生きていくがための手段であったからこそ継続させることができ、結果として名を残すミュ ージシャンとして成功したわけである。 その最大の技が前人未踏のオクターヴ奏法であったことは、言うに及ばない事実である。 このオクターヴ奏法についてよく書かれたものを見る。ジャンゴ・ラインハルトが先駆者的な扱い をされているようだがウェスのものとは全く似て非なるものであり、実際ウェスがジャンゴを聴い て覚えたわけでもなく、ましてジャンゴが演っていたということも知らなかった事である。 確かにチャーリー・クリスチャンを模倣として演り初めた事であったが、彼の好奇心はそれに留ま らず独自の奏法で築きあげてしまった。 そう言う意味からすると、ウェスは本家ウェス派として看板を揚げることが許される偉大なミュー ジシャンである。 つまり、一流とするミュージシャンは【いい演奏】を後世に残し評価されているが、ウェスの場合 【いい奏法】を残し評価されているというところが、その最たる理由である。 【いい演奏】を真似ることはできても【いい奏法】を真似ることは難しく、近年やっとその継承者 として認められるミュージシャンが努力を重ね出現してきたように、即席では決して演れるもので ないというところにウェス流の価値がある。 これがウェス・モンゴメリであり、彼が何故いいのか、何故愛されるのかというところを実に上手 くとらまえた6箇条を紹介する。
ウェス・ギターの聴きどころ6箇条                                    第1条 : 音がいい!   独創的な奏法がもたらす魅力的で個性的な音色。   電気ギターであって電気ギターでないようなあの暖かくたくましい音色の秘密は親指弾きによ   るもの。   そしてトレード・マークともいうべきオクターヴ奏法によって、一層骨太で奥行きのあるサウ   ンドを生み出した。 第2条 : ノリがいい!   単にテーマを奏でるだけでもウキウキしてくるような天性のノリのよさ。   これこそが晩年のイージー・リスニング風の演奏からもジャズを感じさせる要因のひとつであ   ると同時に、万人を楽しませることができる要因である。勿論、ストレートなジャズ演奏のア   ドリブにおけるドライブ感も凄い。 第3条 : 音楽性が高い!   ジャズ・ファンを、また一般大衆を魅了したウェスは、同業者(ミュージシャン)からも圧倒的   に高い評価を得ている。   つまり音楽性もずば抜けて高かったのである。   ビ・バップをルーツとしたウェスの音楽解釈はオーソドックスな中にも独自性があり "独学"   がもたらした最良の成果であるといえよう。とくにそのコード解釈の素晴らしさは圧倒的。 第4条 : 歌心があふれている!   テンポにかかわらず、またテーマを弾いてもアドリブを弾いてもウェスのメロディには "歌"   がある。   無駄な音がなく、すべてのの音に必然性が感じられる。   ノリまくるソロを聴くと、よくもあとからあとから素晴らしい歌が出てくるものだと思う。 第5条 : わかりやすい!   アドリブのメロディも明快だし、リズミックなフレーズも多用し、誰もが聴いていて楽しくな   る。   しっかりとした音楽性に支えられながら、表現される音はあくまでもわかりやすく、それでい   て "粋" なのである。 第6条 : 小細工をしない!   とくにバラッド演奏を聴いていただきたい。   シンプルに徹し、美しい音色を通してウェスの暖かい気持ちが伝わってくるようだ。親指一本   真っ向勝負である。   ミディアム・テンポや速いテンポの演奏でもトリッキーな小技は使わない。堂々としている。
やはりウェスの素晴らしさというものは、誰もが言うように彼の人間性のよさが顕著に音楽と結び つき、聴く人の心を掴むのですが、その素晴らしさについてビル・クウィーンがウェスの死ぬ2ヶ 月前におこなったインタヴュー記事を紹介する。