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  "成功" という巨木を樹立させた根元を探ろうと、最近ある者は次のように質問した。 「総ての電子的効果、つまり振動、トレモロ、再生等々使えるなか、ウェスはどちらかと言えば正 攻法でどのようにしてジャズ界に地位を築いたのか」、それに対する彼の応えはこれら総ての要素 を展開させているだけ、というものであった。 「何も新しいことではないんだ」と強調しながら、「ただ気付かれていないだけだよ。ある者がプ レスリーやビートルズの音楽を鼻先であしらっている間に、僕は彼等の音楽の良さを見つけだし採 り入れようとした・・勿論自分なりにね。 それで、今ニュー・アルバムの制作にかかっているが、バロック風のアレンジで〈フライ・ミィ・ トゥ・ザ・ムーン〉〈グリーンスリーヴス〉それに〈マイ・フェイバリット・シングス〉のような ものを録っているが、一方には管弦楽器、他方には木管楽器といった具合で・・総てがバロック音 楽が基になってるんだ」。 今日 "ウェス・モンゴメリ・クウィンテット" を観に行こうとクラブに足を踏み入れた、否応もな くスウィンギーにアレンジされたポップスやロックなど、何処にでもある音楽が耳に入ってくるで あろう。 2杯目のマティーニを飲むころには・・アルコールなら何でも同じだが・・曲に合わせ足テンポを 取らずにはいられなくなるが、これはバンド全体がひとつのリズムを打ち鳴らすからであり、もう ひとつの理由はそのプレイの間に音楽を聴いて楽しむという事とは無関係に陽気に踊り出す人によ って成り立っていること・・これは広まりやすいのだが・・先ほどバディのピアニストとしての才 能は紹介したが、エレキ・ベースでもコントラ・バスでもこなせるモンクがいる。 そして難しいリズムであってもペースを崩さないコンガのアルヴィン・バーン、最後に (とはいっ ても未熟と言う意味ではない) リーダと同じぐらい気炎をあげ、メトロノームのように正確なドラ マーのビリィ・ハートがいる。 このメンバーでほとんど聴衆の知っているブルーズ・ナンバーかポップ・ナンバーをプレイし始め ると、やんやの喝采を浴びるなか御大ウェスのプレイが一段と冴えわたりステージと客席が一体化 するのです。 しかも "スクエア・イアー" (訳注: 1960年代に流行した言葉で、四角張った耳という。すなわち 不粋で野暮ったい意味から転じてロックやジャズなど新しい演リ方が感覚的に理解できない石頭た ち) が話しかけてくるのです。 ニューポートでジョージ・ウェインの "トラヴェリン・コーンコピア" (訳注: バンド名なのか詳 細不明) とひつ夏を過ごしたあと、クリスマスにリリース予定のレコーディングについてウェスは 心底から満足の様子であった。 「知っていると思うが・・」と、ウェスは気持ちと同じぐらいお腹も満たされて "グラディス" の 店を出ようとする時、「僕はここに至るまで、意識して今の地位に辿りつこうと考えたことはなか った。だから梯子から転落することなどちっとも恐れてなんかいないよ」。 従ってウェスが次のように語るのも自分に対する自信から言えるのです。 「何事をするにも、先ずその前に命あることに感謝すべきだね。僕も若気のいたりで一度だけ酒や 麻薬の誘惑に惑わされたことがあった。 ほとんどの連中がこれらは自分を映し出すのに役立つんだ、と言っているのを何度も見たり聴いた りしてきたよ。 しかし、決してそうでないと言う事も解っていたし、幼い頃から精神というものはしっかり安定し ている時ほど、よい判断が出きるということも知っていた。 多くの場合、僕が正常であったとして他の者が異常な時、その語り口がさも意味ありげのように言 うが、実は理解できない内容ばかりだったよ。 ミュージシャンには酒や麻薬は必要でないという事実を伝えたい。 そうすればもっと早く学べるし、テクニックも身に着くんだ」そして最後に、「若者の多くは麻薬 を使うと仲間を求めるんだ。何故って、独りでやっても面白くないからさ」、と付け加えた。 トップ・ギタリストであるということは、多くの失態を演じるかも知れないが、ウェスが理性を失 っていないということは明白である。
"じゃ、またな!"