ニュース速報 No.113(2013.8.5号)


【あり得る? あり得ない?】未発ハーフ・ノート・ライヴ
The Unissued 1965 Half Note Broadcasts アルバム名 : Wes Montgomery and the Wynton Kelly Trio アルバム番号: JAZZ on JAZZ 244555 リリース国 : EU リリース年月: 7/2013 メディア  : CD
ここ最近、過去にリリースされたLP何枚か分をまとめて一枚のCDに収めたアルバムがオフィシャル、正 規品として歴然と販売されている。 リリース国は単にヨーロッパと記載されてあるだけのものが多く、特定できないのがよけいに疑問を抱 かせるもので、前にもニュース速報No.94(2009.3.8号)「不可解なリリース」でも掲載したように、一体 著作権的な手続きはどうなっているのでしょうか。 そんな経緯もある中、この7月に未発表のハーフ・ノート・ライヴCDがリリースされたが、やはりリリ ース国は不明ですがバーコードから察するとスペインのようである。 《Wes Montgomery and the Wynton Kelly Trio/ The Unissued 1965 Half Note Broadcasts/ JAZZ on JAZZ 244555》 Wes Montgomery(g) Wynton Kelly(p) Ron Carter(b. #1-3) Larry Ridley(b. #4-11) Jimmy Cobb (ds) “Portraits in Jazz” Radio Show hosted by Alan Grant. Live at the Half Note, New York, February 12 and 19, 1965 1. Impressions 6:11 UNISSUED 2. Mi Cosa [Unaccompanied Guitar] 3:34 UNISSUED 3. Blues #1 [Blues] 5:45 UNISSUED 4. Birks' Works 5:41 TOKO WM94-12 5. Laura 6:46 TOKO WM94-12 6. Cariba 8:42 TOKO WM94-12 7. Blues #2 [Closing theme] 3:04 UNISSUED 8. Four On Six 8:07 TOKO WM94-12 9. Blues #3 [Closing theme]    1:26 UNISSUED 10. All The Things You Are 6:43 TOKO WM94-12 11. I Remember You 7:21 TOKO WM94-12 ハーフ・ノート・ライヴの未発音源があることはディスコグラフィでも承知はしておりプライベート・テ ープでも既に聴いてことから、どんな形にせよリリースされた事に驚きは少ないが、《エコーズ・オブ・ インディアナ・アヴェニュー》のように堂々と発表していただきたかったというのが本音である。 ここで、簡単に音源の説明をいたしますが、当時WABC−FM放送局は毎週金曜日ハーフ・ノートよりこのウ ェスをゲストに迎えたケリイ・トリオを初め、コルトレーン、キャノンボール、アル・コーン等々、大物 ミュージシャンの音楽番組 "ポートレイト・イン・ジャズ・ショー" をオン・エァし多くのファンをラジ オの前に釘付けさせるほどの聴取率を稼いだというものです。 当然マニアの間でエア・チェックされ、後年これらのテープの一部がCD化されたということである。 ですから正式に放送録音としてレコーディングされたものでないことから、著作隣接権(放送局に属する) の保護からオフィシャルなリリースは難しいものとされてきた。 そう言う意味から、この度リリースされた未発CDや、冒頭で説明した複数アルバムCDの著作権はどのよう になっているのかと疑いたくなるわけです・・とくにEUさん。 これに関連してもうひとつ説明を加えておきますが、今回リリースされた未発CDは全曲未発表曲と言える ものではない。 全11曲中、6曲は当ファン倶楽部がジャスラックで申請手続きし1994年12月に限定500枚CDのTOKOレーベル 《Smokin' Guitar/Wes Montgomery/TOKO WM94-12》(*1)として既に日の目を見ているものである。 では、未発CDの録音月日とパーソネルについて説明します。 この未発CDでライナー・ノーツを書いているM・レナードは、1965年2月12日の放送録音について、「我々 がリリースしたCDに記載している2月12日は確かなことではあるが、ディスコグラフィでは同じ日同じ場所 でウェスはハロルド・メイバーン(P)、アーサー・ハーパー(b) ジミー・ラヴレース(dr) らが出演し、 〈Caravan〉〈'Round Midnight〉〈Four on Six〉〈Here's That Rainy Day〉を演奏したことにもなって いる。完全に異なるグループで放送録音したことも【あり得る】」と書いている。 これはボリス・ローズのプライベート音源から海賊盤として出回ったあまりにも有名なLPレコード 《Special Broadcast Jam Sessions/Charlie Christian-Wes Montgomery/Beppo BE-KOG 14800》(*2)のこ とを指している。 1965年の2月と言えば、ウェスが欧州ツアーにいく寸前のことであり、この頃のウェスについてはダウンビ ート誌の記事でも記載されていたことを当サイトの《Smokin' At The Half Note/Wynton Kelly Trio-Wes Montgomery/Verve V6-8633》(*3)の項で「ウェス・アンド・ケリィ・トリオの初演」としても説明いたし ましたが、「ケリィ・トリオは6月7日〜6月13日、ボストンにある "ジャズ・ワークショップ" に出演した あとフィラデルフィアにある "ショー・ボート" で6月21日〜6月26日までウェスを迎えて意義あるスタート をきった。これがウェス・アンド・ケリィの初演となった。」という事から、2月にケリィ・トリオ と出演したという記事も見当たらないし、まして同じ日同じ場所で違ったユニットで出演し、放送されたと いうことは逆に【あり得ない】と断言します。 勿論、ウェスとケリィはそれ以前のリヴァーサイド録音では共演はしていますが、ウェス・アンド・ケリィ ・トリオというユニットは6月20日まで存在しなかったと信じています。 ですから、ウェスが欧州ツアーに参加したとき、当然ながらユニットを組んでいたハロルド・メイバーンら を引連れれていったというのは自然なことでもあり、もしケリィと組んでいたらなまた違った欧州ツアーの 映像が観られたことになったでしょう。
TOKO WM94-12 Beppo BE-KOG 14800 Verve V6-8633 (*1)        (*2)    (*3)
今まで音声系メディアの放送ものの多くはMCの部分はカットされるのが一般的でしたが、特に映像系メディア からの影響でしょうか丸ごと収録されていますからリリースされるごとに放送全体の内容が明らかにされてき ました。 ここでも、M・レナードは放送メンバーにポール・チェンバースが参加していなことについて、「ロン・カータ ーやラリー・リドレイと言っているが、何故代わったかの言わないんだ」とMCのアラン・グランの説明不足に 不満げである。 このことについても、当サイトのニュース速報 No.85(2007.2.25号) 「デトロイト1966年」でも記載いたしま したが、「ポールが1965年10月に(9月24日の放送には参加していますからこの後すぐのことです)ツアー先のホ テルで飲酒後鏡の前で空手の練習をしていて、蹴りの瞬間その鏡を突き破り怪我をし、足の裏に刺さったガラ スの破片がもとで化膿し、11月にニューヨーク市内の病院で手術を受けるため年内は一線から離脱することに なった」という話をいたしました。 この事実からして、M・レナードが主張する2月録音も【あり得ない】ことになる。 ポールのエキストラとしてロン・カーターやラリー・リドレイが参加したのは正にこの10月、11月のことであ ることから、当サイトのディスコグラフィが正当であると主張したい。あらためて下記にデータを示すが4回分 の放送となる。ウィントン・ケリィ・トリオにウェスがゲスト出演であることから《the Wynton Kelly Trio and Wes Montgomery》となります。 on #5-7 B'Cast, "Half Note", N.Y.C.; Sep.24,1965 Wynton Kelly(p) Wes Montgomery(g) Paul Chambers(b) Jimmy Cobb(dr) on #1-3 B'Cast, "Half Note", N.Y.C.; Nov.5,1965 Wynton Kelly(p) Wes Montgomery(g) Ron Carter(b) Jimmy Cobb(dr) on #4 and #8-9 B'Cast, "Half Note", N.Y.C.; Nov.12,1965 Wynton Kelly(p) Wes Montgomery(g) Larry Ridley(b) Jimmy Cobb(dr) on #10-11 B'Cast, "Half Note", N.Y.C.; Nov.19,1965 Wynton Kelly(p) Wes Montgomery(g) Herman Wright(b) Jimmy Cobb(dr) 次に挿入曲について説明します。とくに〈 Blues #1〉から 〈Blues #3〉について。 単純に3曲あったブルースをこのCDの1番目から3番目として挿入したといういうだけのネーミングです。 実際これらはライヴのエンディング・テーマとしてプレーするなか、司会のコメントがかぶさり、放送が終わる というものです。 先ずは11月5日放送の〈Blues #1〉ですが、MCのアランは〈Blues〉と紹介していますが、ウェス生涯のアルバム 《スモーキン・アット・ザ・ハーフ・ノート》にも収められたマイルス作曲の〈ノー・ブルーズ〉を知っている ことから何となくそれっぽく即興で弾いたことから当サイトのディスコグラフィでは〈No Blues〉といたしまし た。決して〈No Blues〉と言うわけではありません、改めて〈 Blues〉に戻したいと思います。 余談ですが、この日の6分11秒《Impressions》は聴き応えあります、是非とも・・。 問題は次の9月24日放送の〈Blues #2〉です。TOKOのCDをリリースするときにも話題になったことです。 これはいわゆるジュンカン(英語ではRhythm Change と言う)と呼ばれるAABA・32小節形式のコード・チェンジ でケリィ・トリオがエンディング・テーマとして弾き始めたのですが、ウェスは何故かブルース・コードで弾い ているのです。 MCのアランが〈Blues〉ですと紹介していることからウェスの『勘違い演奏』になってしまったのかどうか、チ グハグな演奏になっています。どうしちゃったんだろう、という感じです。ウェスは突っ走っていますが、ケリ ィもケリィで直ぐに分かったことでしょうからブルースに替えるという機転はなかったのでしょうかね。 レコーディングなら【あり得ない】し完全消去ものです。 それでTOKOレーベルでのリリースもMCのコメントもかぶさり、なおさら挿入は【あり得ない】ということにしま したが、出てしまった以上説明することにいたします。 こんな恥部をウェス・ファンには知らせたくなかったと言うのが本音ですが、お互い慣れたバンドでも『勘違い 演奏』と言うのはプロのライヴにも多々【あり得る】ということですね。 でも私を含めノホホーンとしている素人には言われて聴いても技術的に見抜く才能は備わっていませんが、ただ この未発CDよりTOKOでリリースした音質のほうが格段良いということは分かります。 最後の11月12日放送の〈Blues #3〉ですが、『勘違い演奏』のあと彼らは話し合ったのでしょうか、ここではジ ュンカンで弾いています。 ですからブルースではなく、このクロージング・テーマはケリィがユニットとして参加していたマイルス・バン ドのテーマとして弾いていたものですから何の抵抗もなく使われています。まともな一曲として聴きたかったで すね。 最後にひと言、M・レナードは「全11曲を通して聴いてみたが録音に関して2月ばかりではないタイムラグも感じ る。何曲かは2月であるが、それ以後の放送録音も【あり得る】と言っておく・・・・」とのことらしいです、 よろしく。