JAZZ LIFE July 1982

少しどころかなり古い話で申し訳ないが、1982年と言えば私がウェスのカラー・ディスコグラ
フィを自費出版した年で、この年のJazz Life 7月号の"MUSICIAN研究"はウェス・モンゴメリだ
った。
その特集記事は大きく、宮之上貴昭氏が語る【ウェス・モンゴメリはジャズ至上に輝く不出世の
ギタリストだ】と、編集部がとりまとめた【ウェスの世界を直接語らずともウェスの世界を語っ
てしまうのだ】、それに熊谷美広氏の【真摯に、そして熱く、ジャズの未知を進んだウェスの一
生は、まさに彼の音楽そのものだ】、という内容である。
中でも宮之上氏が1981年9月、オルガンのジミー・スミスとレコーディングした《TOUCH OF LO-
VE/VAP 30016-28》の時に、ウェスのエピソードについて聞きだしたことを掲載しているので、
その一部を紹介する。
「いろんなミュージシャンからウェスのことを聞いてね。そのことから話しましょうか。
フィリ・ジョー・ジョーンズ、彼はウェスと一時期やったことがあるけど『ジョー・パス、ケニ
ィ・バレルはヴェリー・グッド・ギタリスト、でもウェスはジニアスだ』っていってたね。
ロン・カーターは《ソー・マッチ・ギター》なんかでウェスと共演しているけど『ウェスは無口
だ』って言うのね。
ところがね、先日僕も一緒にレコーディングしたジミー・スミス。
まず僕がロン・カーターがウェスは静かな男だって言ってたよ、なんて言うと、ジミーは『一体
誰が静かな男なんだい、ウェスは全然ちがうよ』って言うわけ。どうやら、ウェスは人見知りす
るタイプの人だったらしいのね。
そういえば、このジミー・スミスとウェスのつきあいは長いから、おもしろい話もあるんだ。
ウェスがキャノン・ボールに認められて、あの片田舎のインディアナポリスから出てきて、しば
らくしてからジミー・スミスとカーネギ・ホールに一緒に出たわけ(訳注:これは初耳ですね)。
ウェスとしてはそんな大きなホールにでるのは何せ初めてだから、その拍手の大きさと広がりに
メチャクチャ驚いて、椅子から落ちそうになったとか、人柄がよく分かりますね。
もうひとつ彼の人柄がしのばれる話をしようか。長くなるから簡単に言うけど、僕が今から10年
以上も前にある雑誌にウェスのことを書いた文章を投稿しそれが載ったのですが、たまたまその
隣に同じようにウェスのことを書いたものが載っていてね、それは『あるクラシックの作曲家が
友達に連れられてジャズ・クラブに行くと、たまたまウェスが演奏していた。
休憩時間にウェスと知り合い、次のステージでクラシック・ギターを弾いてくれないかと頼まれ
て弾き始めたところ、観客がざわついた。そこでウェスはひとりひとりの客席を"シーッ"と指を
立てながら歩き回った』、との記事。
なにか美しい話ですね、心にすごく残っているんです。」、と本当に世界の宮之上氏ならではの
ネタですね。
この82年、私はそれまで収集したウェス・コレクションをディスコグラフィにすることで頭の中
がいっぱいでした。こんな貴重な記事を見逃していたなんて、というかSJ誌一本でしたから・
・なんて言い訳・・。
|