我々は "ジャズ625" のリハーサルでウェス・モンゴメリ・クウォーテットの演奏を観ていた。
その時、後ろの誰かがこんなことを言った。
「あのオクターヴ奏法にはびっくりさせられるよ。
彼の親指を観てみろ。まるで別の生き物のように動いているじゃないか。」
その言葉の主はギタリストのアイク・アイザックだった。
ウェスの右手はいくぶん動きにぎこちなさがあるにせよ、親指は見事にコントロールされた動きを
見せていた。勿論左手も可能な限りのスムースなテクニックを持ち合わせていた。
TV収録後、私は彼にどのようにしてその親指の動きを向上させたのかを尋ねてみた。
すると彼はこう答えた。
「誰もと同じ練習の成果によるものだよ。君がピックの使い方を上達させた時のようにね。」
「僕は初めピックを使って弾こうとしたことがあった。たしか19才の頃だったと思う。
でもその出る音があまりにも大きすぎて隣近所に迷惑をかけてしまった。」
「とにかくアンプに繋いでみたかったがあのピックがそれを邪魔するんだ。隣人もいることだし。
それで僕はピックをやめ親指だけで弾き始めたんだ。それ以来この演り方が続いているとい
う訳さ。」
【レヴェル】
「僕はピックを使おうとしたことがあったといったが、でも自分が身に付けたテクニックを捨てる
こともなかろうと考えた。いずれにしろ、自分の趣味でギターを弾きそれなりに納得してい
るんだけど殆どの人はそうじゃないの。」
「だからもともとミュージシャンになろうと思ったことがなかった。ただチャーリー・クリスチャ
ンは僕にインスピレーションを与えてくれた。彼の〈ソロ・フライト〉を聴いてその中にあ
る何かが感じられたね。」
「言っておくが、僕は当時レコードも買っていなかったし、ジャズにもたいして興味を持っていな
かった。ただ他の若者と同様ダンスはやったが、その程度のものだよ。誰もが心地よいサウ
ンドの音楽にであったら、それを繰り返し聴きたいと思うことがあるだろ。
僕にとってそれが〈ソロ・フライト〉だった。」
「それで、そういったものは聴くたび毎にますます良いものになってくる訳だが、しまいには自分
も作ってみたくなってね、『よし、作曲してみようじゃないか』と考えた。
この頃僕は結婚したばかりで時間のゆとりだけはあったので、思い切ってギターを買って練
習し始めたんだ。」
「さっきも言ったが、僕はジャズ界に足を入れる気はなかった。もしそうしていたらチャーリー・
クリスチャンのレコードという存在が僕の気持ちを抑えていたと思う。そしてこのように考
えていただろう。
『もしジャズ狂がクリスチャンのレヴェルまで到達していなければならないとしたら、決し
て僕は浅はかな考えはしていない』とね。」
「だから単に自分の趣味のために弾こうと割り切った。
そして何らかの結果を見い出そうと思った。それがギターとアンプを手に入れて、とにかく
弾いてみることだった。」
「早速、高価なギブソンを買って練習した。教えてくれる人は誰もいないんだ。だから自分でポジ
ションを探りながら憶えていくことから始めたんだ。何もかも。」
あなたは如何にしてあの滑らかなアコースティック・ギターのようなサウンドを創りだしているの
ですか。とくにバラットにおいてはなんですが。
「うーん難しいね。君は自分のやっていることについて考え直すことってある?。つまり演奏の仕
方について自分のアイディアやもろもろの感情については考えるが、いざテクニックのこと
について言われたら恐らく途方にくれるだろう。」
【レコード】
「ギターを演っているときはアイディアのことなんか考えている暇はないさ。
ただ自分自身を表現するだけでそんな事考えたって役にはたたないね。聴衆もそんな風に観
ていないと思うよ。」
「アコースティック的なサウンドのことだがあれは全て親指を使うことから生まれているんだ。」
あなたはこれまでアコースティック・ギターを弾いたことがあるのですか?
「いや、一度もないね。」
次にテディ・バーンのことをどう思っていますか?
「彼のことは知らないね。プレイを聴いたこともないし、さっきも言ったが僕はギター・プレイヤ
ーとの接触を持たなかった。チャーリー・クリスチャンとすらもね。本当に偶然彼の〈ソロ
・フライト〉を聴いて、それがギターを演るきっかけだったんだ。( 訳注: クリスチャンは
1942年に亡くなっている。)
あなたは様々なグループとレコーディングしてきましたが、ホーンについてあったほうがいいのか
それともないほうがよいのかどう思っているのですか?
「そうだね。どちらでもいいよ。僕はいつも柔軟であろうとしているからひとつのパターンに嵌ま
ったり、サウンドやフォームに縛られないようにしている。
ホーンとは機会があれば演るさ。それでいいと思うよ。」
「僕はグループを替えたりレコーディングのアプローチの仕方を変えたりするのが好きなんだ。
前と同じようなレコードを作ってそれを聴いた人達が『おや、これどこかで聴いたことのあ
るサウンドだな』と思われないようにしている。」
「それともうひとつ大事なこと! あまり沢山のレコードを出しすぎるな。ということなんだ。
つい自分の中にあるものを出しすぎるものだが、やはりいつも自分の内側を充実させておき
どのレコードも音楽的に質の高いものにしたいんだ。」
「僕はいまコルトレーンが気に入っている。彼は我々に新しいジャズのスタイルを示してくれてい
る。しかし、そんな彼もやはりレコードの作りすきだと思うね。」
「僕はこれまでトリオやクウォーテットとレコーディングしたり、サックスを加えたり多くのスト
リングスともレコーディングしてきたがいずれの場合も楽しみながら仕事をこなしてきた。
でも圧倒的に大多数の人はストリングスと演るのはエキサイティングな感じがしないと思っ
ていることを承知しているよ。」
【耳障りなこと】
「勿論人々がどのように思うと彼らの勝手さ。でも僕自身はそう(エキサイティングでない)とは思
っていない。とくにホーンが必要だとか、騒々しいビック・バンドでないと駄目だとか、或
いは必ずエキサイティングしなければいけないなどと決まっている訳じゃないだろ。
どう聴くかはその人しだいだよ。(音楽自体ではなく聴く人の)気持ちのエキサイトといった
ものもあると思うよ。
いつもワン・パターンのプレイをするということはできないからね。」
ギター界の雄飛者であるウェス・モンゴメリほど地上から上空へ離れるのを嫌がる人はいない。
とにかく飛行機といったものは大の苦手だそうで、この度のツアーは彼にとって最初のヨーロッパ
へのフライトであった。
「本当のことを言えば僕は3年前にはもうここ(ヨーロッパ)へ来ているはずだった。
関係者がこっちへ来るよう急き立てるものでね。『絶対来るべきだよ』と言って。でも僕は
自分を飛行機に乗せることができなかった。そりゃ、彼らの声を聞いているよ。でも彼らの
説得も弱いんだ。というのは僕は気分屋で直ぐに変わってしまうんだ。」
「でも今年、彼らは僕を巧いタイミングで捕まえた。その日僕はこう言った。『いいとも、彼らに
は行くつもりだと伝えてくれ』そして今ここに来ているという訳だ。
連中は僕に飛行機に乗るのは1回限りだといっておいて、今じゃ毎日のように乗せられてい
るんだ。全く。」
「確かに僕は神経質な性格だ。あいつ(飛行機)が離陸するときエンジンが唸りをあげるだろ、あれ
って誰よりも大きな精力を失うんだ。」
= Melody Maker Apl. 1965= 参考
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