次にクリード・テイラーのことなんですが、1979年のジャズ・ジャーナル誌の "クロスオーヴァ
ー・クルセイダー" つまりテイラーのことをクロスオーヴァーの改革家として、マイク・ヘネシー
が記載している。
「全てはここから始まった。1965年クリード・テイラーがウェスにR&Bのリトル・アンソニと
インペリアルズが64末にヒットさせた〈ゴーイン・アウト・オブ・マイ・ヘッド〉を次のアルバム
に使ってはどうかと提案した。
ウェスは初めためらっていたが、結局レコーディングすべく説得され彼自身のレパートリに組込ま
れてしまった訳である。
だがその《ゴーイン・アウト・オブ・マイ・ヘッド》のアルバムは66年のグラミー賞に輝いた。
そして、ウェスにとって名誉をもたらす以上に彼の音楽的天賦により不運な短い生涯の晩年2〜3
年の間の経済的保証の道を開いてくれたのである。
それがウェスに対して "裏切行為" とか "金儲け主義" という噂が出始めたときでもあった。
1959年から64年の間、リヴァーサイドでのウェスの素晴らしく伸び伸びとした独創的な作品に驚い
た人もいるし、完全に打ちのめされた人々もいた。
しかし、反面よりコマーシャル的になってしまった彼にがっかりした人もいた。一方、彼の仲間の
ミュージシャンの苦しい生活という現実的光景があったし、5つ星の評価を授かったからといって
それがウェスの家族を養っていけるという保証はどこにも無かった。
マイルストーンの2枚組みアルバム《ブリティ・ブルー/M-47030》のライナー・ノーツにJ・テ
イラーがこう書いている。
『私達は、ウェスの才能が放送業界の考え方に沿ったコマーシャル路線に変えられてしまったとい
うことを、後悔しなければならない。
ウェスの創造的なプレイに対する賞賛の全てはリヴァーサイドでのレコーディングといっても過言
ではない。』これもいち利あるが、本当に注目すべきこととして、彼のベストセラーに輝いたアル
バムの多くが60年後半に制作されたものである。
ウェスは、『彼等自身、好まない音楽にはどんな場合でも聴こうとはしないんだよ。』といったこ
とによりジャズを "裏切った" という非難の声に応えた。
このことにより私とテイラーの会話がウェスのレコードについて格好のテーマをもたらした。
テイラーは頭がよくて穏やかで柔らかな口調で話しをする実に歯切れのよい男であり、質問の受答
えはよく考慮され決してうわべだけのくち達者ではなかった。
『かって私は《ゴーイン・アウト・オブ・マイ・ヘッド》のレコーディングでウェスに対しての悩
みを解消したんです。
それからはウェスも楽しんでいたようだが、オリヴァー・ネルソンが彼にレコーディングするよう
説得したわけで、こういった観点からするととてもうまく運んだように思えたね。
オリヴァーはテーマ曲をピアノで録り、ウェスのロード先へそのテープを送り続け、ウェスは仕事
の合間に練習を重ね、レコーディングのためスタジオに戻っていたようだ。
彼は楽譜が読めないことに、とても強いコンプレックスを持っていた、が天才ミュージシャンです
ね。
私はリヴァーサイドでの彼のレコーディングは控えめにいっても荒削りで締まりのないプロデュー
スではなかったかと思うんです。
彼のプロデュースはただミュージシャンを集め、ミュージシャンはただリズム・セクションをこな
すだけで、ここでの長ったらしいソロのジャム・セッション・アルバムの欠点をいうと、聴く人の
耳に届いていおらず決してラジオ放送にもならない曲であることを認識せねばならない。
アメリカではラジオ局がレコード・セールスに貢献していますからね。
それでウェスを聴いていただくには、一般的に受け入られるよう解り易くレコーディングしなけれ
ばならないと決断したんです。
特にウェスとストリングスという関係に拘ったわけではないが、それがより多くの人々に彼を知っ
てもらう手段となったわけです。
もし、ウェスが今もリヴァーサイドでレコーディングしていたなら、恐らくストリングスはタブー
になっていたでしょう。
我々は単に耳障りのよいストリングスでホットなジャズ・レコードをプロデュースしただけで、聴
衆がそれを受け入れてくれたということなんです。』とテイラーは語り、こういった現象は新しい
世代のジャズ・ファンがこのアメリカで着実に増えている兆候だと唱えた。」
どうでしたか皆さんならどちらに軍杯をあげますか。やはり今の時代でも甲乙つけがたいでよね。
それより、やはりウェスがどのようなスタイルでもこなせたという大物振りが彼の偉大さをより一
層深めたといった事でしょうか。
所で、2人の名プロデューサーは一体仲が良いのか悪いのか見当がつけにくいのですが、と言うの
は本アルバムをプロデュースしたのがクリード・テイラーで、そのライナー・ノーツをキープニュ
ースが書いているんです。
ウェスがキープニュース夫人にレコードを渡したという気持ちが解りますね。
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