パーフェクト・ウェス
ピエァ・ラッツ
3月27日、パリでウェス・モンゴメリはギタリスト達を驚かせミュージシャンを魅了し、ジャズ・
ファンを熱狂させた。ウェスはこの日ジョニィ・グリフィンと再会したことで大いにテンションが高
まり、このコンサートが大成功のうちに終了した。これはグリフィンによる効果も関係があることだ
った。そこでピエア・ラッツがウェスへのインタヴューに訪れた。
ウェスは独自のスタイルを築いたがリズムやハーモニについて言えば個性的な表現とは思えない。
確かに多くの技術的アイディアは持っているが、それは単に楽器に関することのみであり、初めはそ
の目新しいスタイルに誰もが驚いていたが、彼のレコードを色々と聴くと全てが噂どおりに披露され
てはいなかった。
それでもチャーリー・クリスチャン以降、最も優れたギタリストのひとりであることに違いなく、独
創的なソロで自身に満ち溢れ、高度な技術のインプロヴィゼーションは素晴らしいものがあった。
私は衝撃的な出会いを期待し観に来たわけではないが、楽しい1日を過ごそうと3月27日にシャンゼ
リゼ劇場で行われた "ウェス・モンゴメリ・クウォーテット" のコンサートに趣いた。
ウェスはあまり知られていない二人のミュージシャンと、全く無名のニュー・フェイスと共演した
がピアノのハロルド・メイバーンは過去にライオネル・ハンプトン楽団と一緒にパリにきたことがあ
ったが、私にとってこのことが唯一の楽しみでもあった。
メイバーンはフィニアス・ニューボーンと同じメンフィス生まれで、最初に話題にあがったのは彼が
エクセレントな "MJT+3" の一員だったとき、今ではあまり見かけなくなったトランペットのボビィ
・トーマス、アルトのフランク・ストロジャ、ベースのボブ・クランショ、それにドラムスのウォル
ター・パーキンスがいた。
ハンプトン楽団で少し弾いたあとメイバーンは1年間アート・ファーマーとベニィ・ゴルソンの "ジ
ャズ・テット" のメンバーになった。
そしてその後の6ヶ月間、フランク・ストロジャとベースのラリィ・リドレイと一緒にロイ・ヘイン
ズのコンボでも活躍したし、マイルス・デイヴィスとは8週間を有意義に楽しみ、J・J・ジョンソ
ンとは8ヶ月間、ウェスとは9ヶ月間( 訳注: 5ヶ月間の間違い )を演ってきた。
その間にはブルー・ノートでフレディ・ハバードともう直ぐアメリカでリリースされるレコーディン
グに共演する( ジェイムス・スポルディングのアルト、ラリィ・リドレイのベース、クリフォード・
ジェィヴィスのドラムス)と、"プリティ・インタレスティング" のインタヴュー記事に答えていた。
ローランド・カークの2枚のアルバムで彼のピアノを思い出されることだろうが、彼はまだ自己のリ
ーダ・アルバムをリリースしたり、技術をアピールするチャンスがなかったが、だからといってグル
ープの結成にも拘らずただただその時期を慎重に待ち受けているようであった。
彼はピアニストとして、ギターとプレイする際に生ずる問題はたいへん興味深いものだと考えており
、このコンサートではその問題を真剣に対処している様子が窺えた。
アーサー・ハーパーのことはJ・J・ジョンソンと一緒に結成したバンドでのアルバムしか知らない
が、この素晴らしいミュージシャンは、例えば1960年にレコーディングされた《J.J.INC. /Columbia
CS-8406》というレコードや、ごく最近リリースされた《ブルーフ・ポスティヴ/ Impulse A-68》で
聴くことができるが、ここではメイバーンとドラムスのフランク・ガントと一緒に演っている。
彼のベースはジョージ・タッカーやウィルバー・ウェアのような堅実派とは対照的な柔軟なスタイル
であった。
ジミー・ラヴレイスをここで論じるのは少し早い気もする。
何故なら、テクニックにおいてまだ今日のドラムスのレベルに達しておらず、彼の左手の動きがあま
りにも悪いため単調なリズムが観衆にも受けなかったようである。
主催者はクォーテットにジョニィ・グリフィンとのジョイントを考えついた。
1962年6月にリリースされた《フル・ハウス》をレコーディングしたとき以来の再会を願い、何曲か
で共演することになった。
【第1部】
Wes Montgomery(g) Harold Mabern(p) Arthur Harper(b) Jimmy Lovelace(dr)
Four On Six
Impressions
The Girl Next Door
Johnny Griffin(ts) Harold Mabern(p) Arthur Harper(b) Jimmy Lovelace(dr)
Blue Monk
All The Things You Are
We
Wes Montgomery(g) Harold Mabern(p) Arthur Harper(b) Jimmy Lovelace(dr)
Here's That Rainy Day
Jingles
〈フォー・オン・シックス〉はウェスのオリジナルだが、明らかにオープニング・テーマも兼ねてい
た。
そのソロは単純なメロディに続いてオクターヴ・ソロ、そしてピアノ・ソロから再びギター・ソロか
らテーマへ、このスタイルは時々テーマに戻る前に繰り返し出てくる "フォー・バス・ソロ" を別に
すれば極めて一般的な内容であったが、私が思うに何か奇抜なことを採り入れて他にはないスタイル
を見せてもよいのではないかと感じた。
メイバーンはバッキングの巧さとソロの繊細さで注目され、フィニアス・ニューボーンによく似たブ
ロック・コードを使っていたが、途中から他の技法に転じたことを非難せざるにはいかないだろう。
彼は恐らくこのスタイルを何度も繰り返すだろうが、決して上手い演りかたとは思えなかった。
〈インプレッションズ〉はジョン・コルトレーンの曲だが、これは〈ガール・ネクスト・ドァ〉のバ
ラッドと同様に心地よくプレイされたが、最初の部分で私はウェスの親指の調子がよくないようにみ
えた。
というのは、レコードで聴くようなクリアなサウンドが決まらず、そのためか早くからオクターヴ・
ソロを切り上げてしまった。それは右手の不調は全て左手で補っているようにもみえた。
(訳注: ここでウェスとグリフィンは交代したと思われる)
ジョニィ・グリフィンはリラックスしており、どことなくデクスター・ゴードンを感じさせるような
( アメリカ人がよく使う )ワン・パターンの紹介のあと、〈ブルー・モンク〉を演り始めた。
彼はデヴュー以来の情熱さを少しも失わずに素晴らしいホーンのテクニックを身につけており、予想
どおりの力演はスター・プレイヤといわれたモンクの曲を難なくこなしながらにも、初めてプレイす
るミュージシャンのような新鮮さも窺わせていた。
驚いたように突然のストップ・リズムにメイバーンは合わせる事が出来ず、唖然と聴き流していたが
位置が悪いのか椅子を置きなおしていた。
つまり開演当日、午後のリハーサルは30分しかなく、全ての曲を合わせることができなかったことか
ら、グリフィンは〈オール・ザ・シングス・ユー・アー〉をプレイする直前にウェス抜きの4人で演
ろうと言ったのが原因のようだった。
ソロは低い音程から "ミラクル・スウィング" へと展開したが、あまりにも長いため少し聴き疲れて
しまったが、次の〈ウィ〉は終始 "アップ・テンポ" の快演であった。
〈ヒァーズ・ザット・レイニ・デイ〉でグリフィンと入れ替わったウェスは、ボサ・ノヴァ・タッチ
の甘いサウンドを聴かせてくれた。
自作の〈ジングルス〉においては期待どおりのプレイが展開され、オクターヴ・ソロがより興奮を高
める事になったが、メイバーンはここでもあまり目立つものではなかった。
【第2部】
Wes Montgomery(g) Harold Mabern(p) Arthur Harper(b) Jimmy Lovelace(dr)
unknown (Twisted Blues)
Jo Wayne (To Wane)
Johnny Griffin(ts) Harold Mabern(p) Arthur Harper(b) Jimmy Lovelace(dr)
Body And Soul
Indiana
Wes Montgomery(g) Johnny Griffin(ts) Harold Mabern(p) Arthur Harper(b)
Jimmy Lovelace(dr)
Full House
'Round Midnight
Blue 'N 'Boogie 〜 West Coast Blues
コンサートの第2部は殆ど知られていない曲から始まり(訳注:〈トゥイステッド・ブルーズ〉を知
らないのでしょう) 次にメイバーンの作曲した美しい〈トゥ・ウェイン〉ではウェスはとてもリラッ
クスし、難しいテクニックを全く感じさせなかった。
その様子を客席のギタリスト達は双眼鏡で観察していた。
そして〈ボディ・アンド・ソウル〉(訳注: ここでウェスとグリフィンは交代したと思われる)がプレ
イされると、ジョニィ・グリフィンが登場しリリカルなソロを聴かせてくれた。
ここでもメイバーンの外れたバッキングに戸惑った様子をみせていた彼は、客席のベン・ウェブスタ
に気付き軽くお辞儀をした。ウェブスタは今夜 "ブルー・ノート" での出演が控えていた。
強烈な〈インディアナ〉のあと、カフェ "ツボ" で成功を収めた〈フル・ハウス〉で面白いことが起
こった。 (訳注: ここからウェスとグリフィンは共演した) テーマの出だしで、作・編曲した彼等は
ハーモニの分担を忘れてしまったのだろうか、ウェスは3年ぶりのように弾き始めたが直ぐに思い出
したようである。 (訳注: 確かに出足がそろっておらず、テレ笑いの声が聴き取れる) グリフィンも
シンプルなメロディから引っ掻くようなよじれたた音まで十八番の得意技でソロを聴かせた。
メイバーンの 3/4を感じさせないとても効果的なバッキングにウェスは最高の乗りをみせ、今夜のコ
ンサートの中でも目を離せないシーンであった。
私個人的にはこの曲を第2部のオープニングに使うべきではなかったかと思った。
ウェスの〈ラウンド・ミッドナイト〉が当時リヴァーサイドよりリリースされたとき、ミステリアス
さが感じられないと不評であった。確かに彼はこのテーマに対して楽しく穏やかなバラッドで演って
いるが、聴いていて心地よいものであった。
グリフィンはテーマを吹かなかったが、この美しい曲の中にアンバランス的な調子がかえってモンク
の音楽性を理解していることを示した。
〈ブルーン・ブギ〉でウェスは前半の不調を十分にカバーする内容で堂々とコンサートのクライマッ
クスをむかえた。
〈ウエスト・コースト・ブルーズ〉が終わってアンコールの拍手が随分ながく続いていたが、彼等は
ステージの袖に消え再び姿をみせなかった。本当によいコンサートだった。
= JAZZ HOT May 1965 = 参考
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