ウェスの親指奏法(The thumb performance of WES)
ウェス・モンゴメリの親指奏法について、定説的には近所迷惑だったのでピックをやめたという
ことになっているが、果たしてそうだったのか考察してみたい。
ウェスが最初にギターを手にしたのは13才で、6弦ギターではなく兄のモンクより贈られた4弦テ
ナー・ギターだったというが、以下あくまでも推測の話とする。
この時点のウェスはギターの知識がない全くの初心者である。
よくみる光景だが、初心者というよりギターを初めて持った人が弾くスタイルは、スチールであれ
ガット・ギターであれ必ず親指で聴きなれたメロディを探りながら弾いている。
これが自然の形であり、ましてピックなど使える訳がないからウェスもポジションを覚えながらか
自然に親指を使ったと思われる。
彼は結婚後の19才で6弦ギター(中古のギブソンES-125)と2-3ヵ月後にアンプを購入し本格的に
クリスチャンのスタイルを練習した。
当然ながら親指奏法である。そのことをインタヴューで「僕はピックを使ったサウンドが嫌いでね
、しかし一度だけ…そう、2ヶ月ぐらい全く親指を使わず、ピックで弾いたことがあったが使いこ
なせなくて、それで再び親指に戻そうと思ったら今度は親指のゆうことが利かなくてね、それで自
分自身にいったいおまえは『どうしたいんだ?』、『どっちで演るつもりなんだ?』、と問いかけ
てみた。トーンは親指を使ったときのほうが好きだった。テクニックの面ではピックを使うほうが
上手くいったが、二兎追うものは何とやらというからね。」と答えている。
結果的にピックを使った2ヶ月のあいだに近所迷惑な話があったにせよ、ウェスの親指奏法による
原型は既に確立されていたことになる。
この親指奏法については、ウェスが1965年に欧州ツアーに出かけた先のロンドンで女性記者のヴ
ァル・ウイルマーにも、「ギターを始めた頃はただ自分が楽しむために弾いてたんで、サウンド(
色んな意味での親指とピック奏法)の違いが判らなかった。多分何千人ものギタリストが親指を使
っているんだろうけど、インディアナポリスには偶然いないだけなんだと思い込んでいた。その後
ギターのことがだんだん解るにつれ親指を使ってる奴が少ないことに気付いて、ちょっと怖くなっ
たけどね。」と笑いながら「僕は今まで何度もクラシック・スタイルで弾いているのかと聞かれた
が、確かに5本の指全てが必要なんだけど親指以外は使っていない。だからといって他の4本の指
を練習させたところで15年はかかるし無意味なことだと思うよ。」と答えている。
ウェスの親指奏法が、その後オクターヴ奏法につながった話で定説的には「さらにオクターヴ離
れた音を同時に弾くことでより一層静かになった。」と今まで簡単に書かれていたが、のちのイン
タヴューでチューニングしていて偶然スケールというものを見つけ離れた2本の弦に同じ音の存在
に気づき、メロディやソロに活用することに成ったというのが事実である。
別の事実関係として98年12月に出版されたCDジャーナルで、小川隆夫氏がフレディ・ハバードか
ら聞いた話で明らかにしている。
要約すると「1950年代後半、ウェスとハバードはジョニー・ザ・クライング・トンプソンのブルー
ズ・バンドに雇われたがウェスはジョニーのサイド・ギターにまわりユニゾンやハーモニーをつけ
ていた。
やがて感のいいウェスは彼のフレーズを全て覚えてしまい、次に上下どちらかのオクターヴ差の音
をユニゾンで演るようになった。
ある日、演奏中にジョニーが弦を切るアクシデントがあり、ウェスはとっさに彼の分まで、つまり
オクターヴの上下音を同時に弾いた。」といことからオクターヴ奏法の発想が生まれたと書かれて
ある。
でもこの時点でウェスはオクターヴ奏法の練習を繰り返しおおむね完成されていたからできたと結
論づけられる。クラシック界にも既にオクターヴ奏法が存在しており、親指を含めた複数の指でプ
レイするが、ウェスの親指奏法が確立されているなかこの問題をどのように対処したかは、後のイ
ンタヴュー記事でもみられる。
つまり、オクターヴを構成する中間弦のミュートのことである。このテクニックを完璧に自分のも
のにするまでウェスはかなり悩み練習を繰り返し、やっとのことで前人未踏のオクターヴ奏法を築
いたのである。
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