トイ・トレインに乗って

     ダージリンに来て、3日目。外は、雨&霧という、ダージリン特有の重苦しい天気。
    昨夜、ジンを飲み過ぎたため、頭が痛い。
    朝食は初日に買った、ラスクにマンゴージャムをつけて食べて、そしてダージリンティーを飲む。
    100Rsの部屋で、景色も悪いが、起きてすぐにお湯を沸かして、食事の準備をする。
    外へ出て、食堂で食べる朝食もいいが、こんな風に、部屋で食べるのも、悪くはない。
    なんてたって、コンタクトを入れなくても良いし、着替えなくても良いと、楽です。

     小さなリュックに、ガイドブックとペットボトルの水を入れて、首からカメラをぶら下げて、準備完了。
    僕は、ダージリン駅へと向かった。
    ダージリンで有名なのが、ダージリンティーと、世界遺産にも登録された、トイ・トレインだ。
    この“オモチャ列車”のトイ・トレインは、1881年に開業したダ−ジリン・ヒマラヤ鉄道と言い、ニュー・ジャルパイグリ駅から、ダージリン駅までの標高差2000mの急勾配を約6時間かけて走る。
    軌道の幅が610mmと、とても狭く、列車も小さい。

    僕にとっても、このトイ・トレインは、観光の目玉であって、是非とも乗ってみたかった乗り物だ。
    どうせなら、これに乗って、シリグリまで行こうかとも考えていた。
    でも、今日は試乗と称して、ダージリンの次の駅、グーム(Ghoom)まで行ってみようと思う。

    トイ・トレイン

     早速、切符を買うが、6Rsだと思っていた切符は、なんでか21Rsだった。
    そんなことは、あまり気にもせずに、列車の見に行った。
    僕は、列車には詳しくないが、かなり古く、使い込んでいるのがわかる。
    かわいい、オモチャのような客車に乗り込むが、狭いと思っていた車内は、想像していたよりも広い。

    そうこうしているうちに、トイ・トレインは、汽笛を鳴らして、ダージリン駅を出発。
    僕は、このゆっくりと走るトイ・トレインからの車窓の風景を眺めながら、旅を満喫しようかななんて、たくらんでいましたが、窓を開け、窓側に座っている乗客のところには、蒸気が浴びせられ、灰が飛んでくるありさまで、とても窓を開けていられる状態じゃなかった。

    車窓からの風景は、蒸気のため一面、真っ白となってしまい、景色どころじゃない、トイ・トレインは、出発前の可愛さは無く、もうただのチンタラ走る、遅い列車へと僕の心の中で、豹変した。
    遅いと言うことは、ウワサでは聞いていたが、これほど遅いとは・・・
    列車は、坂道になると止まり、そして何故か?バックして、勢いをつけて、坂を上る。
    たった5km先のグームに着いたのは、出発から45分後だった。
    俺のジョギングとあまり変わらないタイムだ。

    遅すぎる。あまりにも遅すぎる。
    やっぱシリグリへは、ジープで行こうと僕は、心に決めた。

    ダージリン駅にて

     グームに着き、僕はグーム・ゴンパを目指して、歩き出した。
    グームは、トイ・トレインの線路沿いに、商店などが建ち並んでいて、この線路が、人々の生活の場となっているのが伺われた。

    グーム・ゴンパは、広い敷地の中に、こぢんまりとしたお堂があり、その壁には、龍が施されていて、何か、ゴンパと言うか、チベット版、竜宮城のような感じの建物だったが、中は、大きくて立派な仏像があり、厳格な雰囲気さえ漂わせていた。

     この後、サムテン・チュリン・ゴンパへ行き、ここの僧侶の一人が、ラサから来た僕に、僧侶が色々と質問してきた。「ラサは、どうだった?好きか?ラサは、中国人が多いか?」そんな質問をされて、分かる範囲で、英語で答えた。
    このあと、プジャをやっているから見ていけ。と言われたが、なんとなくそんな気にはなれずに、ゴンパを後にして、駅近くの食堂で、1杯10Rsのトゥクパを食べた。

     帰りは歩いて戻ることに決めていたので、天気は、霧時々雨という中、鼻歌を歌いながら、僕は、線路沿いの道路を歩き出した。
    霧のため、視界も悪く、景色なんて見えやしないが、時折、トイ・トレインとすれ違ったりすると、さっき乗ったで。なんて、呟きながら、少しだけ嬉しくなり、歩いていて気持ちが良かった。

    左:グーム・ゴンパ 右:グーム売店の少女

    突然!目の前に巨大なゴンパが現れた。
    霧がなければ、遠くからでも見えていたことだろうが、霧のため、目の前に現れるまで気がつかなかった。
    本当に、突然、出現したような感じだった。
    コンクリートで造られた、近代的なゴンパは、チベットのゴンパと比べると、造りがキチッとしすぎて苦手だが、入ってみることにした。

    大きなお堂の中に靴を脱いで、入ると、ちょうどプジャの最中だった。
    中には、僧侶が100人以上は、いるのだろうか?数えてないので、分からないが、大勢の僧侶がゴニョゴニョと経を読んでいる。
    天井には、ゴンパには、不釣り合いな豪華なシャンデリアが吊されており、何というセンスなんだろうかと、おかしくなって、少し笑ってしまった。
    雨が降っていたこともあり、あまり長居することなく、DRUK SANGAK CHOELING ゴンパを後にした。

     そして、ようやくダージリンに戻ってきた。
    ここ数日、歩きっぱなしのため、足が痛いし、なんか風邪も引いてしまったようだ。
    今日もジンを飲んで、早く寝よう。

    DRUK SANGAK CHOELING ゴンパにて




    サヨナラ、チベット文化圏

     早起きをして、山を見に行こうと思っていたが、寝過ごしてしまった。
    部屋で、コーヒーを飲み、10時頃に部屋を出た。
    朝食は、部屋では食べずに、チベット系食堂で、トゥクパを食べた。
    この店のメニューは、トゥクパとモモしかない食堂で、たった2種類のメニューで勝負している割には、味はイマイチだったし、モモは、何でか肉まんだった。

     朝食を食べた後、僕は、チョウラスタへ行き、そこから、ヒマラヤ登山学院・エベレスト博物館へと向かった。ちょうど、チョウラスタから、博物館までは、一本道なので、迷うことはないだろう。
    アップダウンが少ない、アスファルト道で、体力的にもしんどくなく、木々が生い茂り、歩いていてとても気持ちが良い散歩道だった。
    ほんと、シッキム、ダージリンは、歩いているだけで気持ちが良い。

    ダージリンの街

     ヒマラヤ登山学院・エベレスト博物館と併設されている動物園の入場料は、100Rsだった。
    動物園には、チベットならば、その辺にいるヤク、それにチベタン・ウルフ(オオカミ)、などヒマラヤに生息している動物を集めた動物園で、ヤクのウンコの臭いが、とても懐かしかったり、メチャクチャデカイ、トラもいて、これは間近でみるのは、恐いくらいだったが、尻尾がみょうに可愛かった。
    チベタン・ウルフは、精悍(せいかん)な顔つきで格好良かったし、レッド・パンダは、持って帰りたいくらい可愛かった。毛が銀色(灰色)のサルもいて、写真を撮ろうとしたら、顔を背けられた。
    エベレスト博物館は、山好きの父親が見たら、喜ぶであろう品々が展示されていた。

     帰りは、来た道とは違い、道路沿いに民家や商店が並ぶ、通りを歩いていた。
    今日のダージリンは、珍しく晴天なので、眼下の点在する家屋やダージリンの街並みが、良く見えた。
    足下は、一面の茶畑が広がっていて、その先のは、山の斜面にへばり付いたような、ダージリンの街並みが見える。いい眺めです。

    左:チベタン・ウルフ 右:レッドパンダ

     街の、ジープスタンドに戻ってきて、そこの屋台のチャイ屋で、チャイを一杯飲み、マーケットの近くの散髪屋へ髪を切りに行った。
    旅を始めて、1ヶ国で1回は、髪を切りに散髪屋へ行くというのが、ちょっとした楽しみです。
    前回、ネパールで切ってから、2ヶ月弱経つので、髪の毛もそれなりに伸びてきました。
    どうなるかは、分からないのが、不安でもあり、楽しみでもあります。

    床屋専用のイスに座ると、腹がプクッと膨れあがった、インド人のオッサンが、手際よく髪を切る。
    シャキシャキ、シャキと。そして、完成したのか、オッサンの手が止まった。
    うーん、そんなに変じゃないが、前髪が揃いすぎです。一直線だ。
    後も少し長くて、中途半端な感じです。
    何か言うと、もっと変になりそうなので、何も言わず、「ありがとう。」とだけ言って、店を出た。
    あと一日、ダージリンに滞在するが、楽しい想い出ができました。

    ダージリンの町の様子

     翌日。ダージリン最後のこの日は、絶対に山を見ようと、早朝5時に起きたが、宿の門の柵が閉まっていて、外へ出られません。
    でも、こんなことで、諦めたくはないので、柵をよじ登り、乗り越えて、外へ。
    さて、どこからが良く見えるだろうか?と考えた結果、僕は、ダージリン駅へと向かった。
    そこからならば、遮るものがないので、多分、見えるはずだ。
    そして、見えた!ヒマラヤが!カンチェンジュンガが!メッチャきれい!
    こんなキレイなヒマラヤを見たのは、初めてだった。
    早起きは、三文の徳、以上の眺めでした。

     その後、チョウラスタへ行き、ブティア・ブスティ・ゴンパへと向かった。
    チョウラスタは、霧に包まれていたが、ゴンパに着くと、霧が晴れていて、青い空と緑の森林、雲海のように広がる、雲が織りなす風景の中に、色鮮やかなゴンパが建つ風景は、とても気分が爽快になるすばらしい、眺めだった。あーあ、カメラを持ってくれば良かった。

    僕は、お堂の2階へと行き、誰もいないお堂で、色んな思いを込めて、五体投地をした。
    今回の旅の中で、ゴンパへ行くということが、日常茶飯事だったが、明日から、チベット文化圏を離れ、低地を西へ進む。それは、次のチベット文化圏の地へ行くための、通り道でしかない。
    今回の旅は、チベット文化圏から、離れたくはないし、離れる気もない。
    少しでも、チベット文化の息づかいが感じられる場所へ行きたい。

    ダージリン駅から見えた、ヒマラヤ

     昼飯のチョウミン(焼きそば)を食べて、ネット屋で、2時間ほどネットをした後、カフェで、ネパールで出会った仲間や日本の友達に手紙を書いた。
    手紙なんて、日本では、書かないが、旅先では、良く書いている。

    部屋に戻り、コーヒーを飲む。
    ダージリンでは、紅茶を飲む方が多かったが、今日は、コーヒーにした。
    このコーヒーは、カトマンドゥで、tinaさんからもらった物だったが、あと1、2杯でなくなってしまう。
    ちょうど良いかもしれない。

    サヨナラ、チベット文化圏。