Jim : いつも変わらぬ素晴らしいプレイですね。あなたのプレイを観ていましたが、カメラがあな    たの親指に焦点を合わせた映像を撮ることができました。そのプレイ・スタイルこそが他の    ギタリストと一線を画す所以でしょう。西海岸のあるギタリストが「ウェスの親指を車のド    アに挟んでやろうと一日待ち伏せていた」という話がありますが・・ wes : 誰のことか知っているかい? Jim : ジム・ホールですか。そのジョークならジム・ホールですよね。それにしてもあなたのプレ    イ・スタイルは教育で学んだものではなく真にウェス・モンゴメリのスタイルです。    オクターヴ奏法を駆使したソロ・プレイこそ、全てのギタリストの中で特別な存在感で輝い    ています。そしてかなり以前あなたから聞いたことを思い出しました。    そもそもピックではなく親指で弾くようになったのは静かな音にしたかった、ということで    したね。 wes : そうだね。ピックは音がシャープで突き刺さるような感じになるだろ、だけど僕も最初はピ    ックを使っていたんだ。誰もがピックを使っていたからね。それに僕はアンプを通して練習    するのが当たり前だった。なぜかと言うと、2か月間アンプなしで練習してからアンプを通    してみたらノイズの調整が難しくまともに音が出せなかった。それで使いこなすためにアン    プを通して練習するようになったんだ。 だけど、夜遅くまで練習していてまわりに迷惑をかけていることなど考えもしなかった。    (訳注: これが結婚後最初に買った6弦の中古ギターで、別のインタビューではアンプはギタ    ーを買った2-3か月後に買ったと言いう話と合う) Jim : そうなの。 wes : するとすぐに苦情がはいってね、そこでどうにかしてヴォリュームを抑えなければと思った    んだけどこれ以上抑えるとアンプを使う意味がなくなってしまうので、試しにピックをアン    プの上に置いて親指で弾いてみると音が丸く柔らかになったんだ。    それで、とりあえず熟せるようになるまで親指を使い、熟せるようになったらまたピックを    使おうと思った。 Jim : それでピックが使えなくなって親指で弾くようになったんですね。 wes : そうだね。当時の僕は初めからプロを目指していたわけでもないが、ただギターを思うまま    に親指で弾けるようになって何もわざわざピックで苦労することもなかろうと思っただけの ことなんだ。 Jim : でも初めからピック奏法のギタリストは、あなたのようにピックなしで弾けるはずがないと    考えていたと思いますよ。 wes : うーん、連中は親指が5本の中で特に動きが悪いという言うんだが、クラシックギターのプ    レイアーも僕と同じではないにしろ親指を使っている。 Jim : だけどあなたの親指は奇跡的なまでの動きをしていますよ。 wes : それが痛みを伴うんだ。 Jim : 本当ですか。 wes : そう、それが・・どういっていいのか・・。 Jim : だけどあなたは驚異的な速さで弾いています、親指でね。それが誰も真似ることができない    技なんですよ。どのようなプレイをするかも含めてね。特にオクターヴ奏法はウェス・モン    ゴメリが登場するまで誰もなし得なかったことですが、これってどのように思いついたので    すか。 wes : 或る時、ギターのチューニングをしていたんだが思うようにいかなくてね、それで    別のギターに変えたがやはり上手くできないので最初はギターの所為だと思っていた。    ロー・ポジションはそこそこでもハイ・ポジションにはズレがあるんだ。    それで1弦からチューニングしていき、2弦、3弦と順次どのフレットでどのくらい合って    いるのか、どの弦にズレがあるのかなど探っているうちに、あるひとつのスケールを全くの    偶然に見つけ「おっ、これは悪くないぞ」と思いながら同じ音程の2本の弦で弾き比べるこ    とに気付いたんだ。    そこでスケールについて更に確かめようとしたら途中で解らなくなってしまったので「おい    しっかりしろ、一度出来たんだから」と思いながらにも、何度も何度も繰り返し続けたが、    結局難しくてずっと悩むことになってしまったので、一旦スケールはおいてメロディを弾い    てみようと思ったが、それも思うように弾けなくてね・・絶えず何かできたと思ったら次が    上手くいかなくてね。    でも「なにをしてるんだ、オクターヴでもメロディを熟すんだ」と自分に言い聞かせたよ。    それで更に練習を重ねたが、ソロのラインをオクターヴで弾くのはなかな熟せなかった。    ギターから手を放しても指が痙攣で固まっているんだ・・ハハハ。    本当に一筋縄ではいかないと思ったね。 Jim : しかしやり遂げました。とうとう完成させたわけですね。 wes : まあね。 Jim : 初めてあなたのプレイを聴いた人々が噂にしていたことを覚えています。    「聴いてみろ。何とオクターヴでソロを演ってるじゃないか」、というものでした。    ところである若いギタリストの話しなんですが、彼は交換留学生として我が国の大学に通っ ていました。    勿論勉強が目的だったのですが、ヨーロッパでもギターを習っていたらしく帰国後やはりギ タリストとなりました。    彼が留学する前、ギターの教師も興味あることから「もしウェス・モンゴメリを観るチャン    スがあれば観察しろ、聴くんじゃなく観るんだ、どのように弾いているかを帰ってから私に    報告してくれないか」、と頼まれたそうた。    私はこれとよく似た話しを多くのギタリストから聞いたのですが、あなたが一体どのように して弾いているのかを探るためにレコードを聴いていると言うんです。    しかし、いくら聴いても指の動きまで想像することは出来なかったようです。 wes : なるほど、実は僕に沢山の手紙が届いてね、そこにギター・ポジションの図が添えられてお    り、それは指使いへのアドバイスを求めた質問状だったんだ。    僕がヨーロッパへ行ったときも一線で活躍中のギタリスト達が・・連中は毎月の集会で僕の    ことについて話し合っていたらしく・・ディスカッションの場をセッティングしてくれたん    だ。多分24人くらい居たかな、ある楽器店の地下を借りて本当に有意義な体験をしたよ。 Jim : へえー、そうでしたか。 wes : 素晴らしかった。 Jim : 届けられた質問状の手紙というのはヨーロッパ人からのものだったのですか。 wes : ヨーロッパにもアメリカのダウン・ビートみたいに何と言う雑誌か忘れたが、そこで色んな    ギタリストからのアンケートが集約されてあり、その雑誌がこちらにも届けられてくるんだ。    見ると、誰かのコメントには「ウェスはこんな人柄で、全く違うアプローチじゃないか」と    書かれ、多くの連中のアンケート結果から「彼はギタリストとは認められないのではないか」    と結論づけられたみたいなんだ。 Jim : どう言うことです。 wes : 連中は、僕は「ギターを弾いている」だけだと考え「普通のギタリスト」ではないと言うこ    とらしく、連中が思っているところの「ギター・プレイ」じゃなく、ただ「使っているだけ    だ」、と言う具合に見えるらしいんだ。 Jim : あなたは単にギターを音楽の道具として使っていると言うのですか。 wes : そうだ、しかし僕は自分の想像力を活かし、ただそれを表見するに過ぎないんだけど・・。 Jim : ・・それは極自然な考えだし、分かる話ですね・・。 wes : ・・そうなんだよ、だからギター奏法の理屈なんて知ろうとは思わないし・・ただ、基本的    な事は分かっているが、正直本来の意味するところはどうでもいいと思っている。    色んな考え・・十人十色だから。    そんなことから「ピックアップの選定は間違いないか」とか「ブリッジの選定が合っていな    いのか」など、説教じみたことばかり言っているが、つまりはプレイしなきゃ分からないし    考えてばかりじゃ意味ないんだよ。     Jim : そうですね。あなたはこのように考えているのですか。    例えば、ある教師があなたのスタイルを変えようとすると、ウェス・モンゴメリという特色    を破壊してしまうことになりますが・・ここである教師のとこへ行ったベン・ウェブスター    の逸話を思い出しました。    当時ベンはスターとしての地位を確保していましたが、その晩年にテクニックのことで正統    派の教師のもとを訪れ・・後で分かったことなんですが・・その教師とは昔からベンのファ    ンだったのです。    ベンの太くて高低音の幅広いサウンドはとてもパワフルですが、リードからの息漏れも感じ    とられるんです。しかし逆に教師にとってそこが魅力的でありベンの特色でもあるわけです    が、それで教師は彼がレッスンを受けに来た時「何か演ってみて」と言ったんです。    聴き終えて教師はベンに対し「君のプレイは間違いだらけなんだけど、それが素晴らしくて    何も変える必要はない」と言い、さらに「だから君の演リ方に手を加える気もないし、他の    誰にも師事されないでください」と言ったそうです。 wes : よくわかる話だね。ところで僕の事で来年初めに出す本があるんだ。    興味を持っている仲間がまとめたんだが、技術的な分析まで分かり易く解説してくれるので    はないかと思っている。特に僕の奏法を知りたがっている連中のためにもね。 細かいことまで話す気は無いが、おおよそのアプローチは掴めると思うよ。     (訳注: 1968年ロビンス・ミュージックから出版の "WES MONTGOMERY JAZZ GUITAR METHOD") Jim : マルハナ蜂に関する話しがあって・・その話しは密かにウェス・モンゴメリに例えられてい    ます。    航空力学の法則によれば、羽根の表面積と胴体の重量からいってマルハナ蜂は空中を飛ぶこ    とは不可能なんだそうです。    でも・・マルハナ蜂はそんなことも知らずに飛び回っています。    ですから、ウェス・モンゴメリもマルハナ蜂のように何も知らずに飛び回っている存在だと    言うんです。    では、ウェス何か演奏お願いします。 "カリフォルニア・ナイツ" でしたね。 wes : ハハハ・・そうです。       The Montgomery Brothers ♪♪ California Nights ♪♪  Jim : 話しに戻します。ウェス、プレイこそがあなたにとっての世界へのパスポートです。    神のご加護がありますように、今日は出演していただき感謝しています。 wes : こちらこそ光栄に思うよ。 Jim : あなたは本当に素晴らしい、その親指も労わって下さいね。 wes : そうだね。ありがとう。 Jim : “People in Jazz”今日のメイン・ゲストは世界中が認めたギタリスト、ウェス・モンゴメ    リでした。ジム・ロックウェルがお送りしました。それでは皆さんお休みなさい。