アルバム名 : Wes Montgomery/Back On Indiana Avenue:
The Carroll Decamp Recordings
アルバム番号: Resonance Records HLP-9036, HCD-2036
リリース国 : USA
リリース年月: 2019/4
メディア : LP/CD
ウェスの第六弾!! レゾナンス・レコードのゼヴ・フェルドマンの発掘【偉業】もここまでくると
【神業】と言わざるを得ない。
彼は「一連のウェス音源は我社の根幹を成す最重要ブレイアーだ」と言及する。
今回リリースされた音源は、ウェスと同郷のピアニスト、キャロル・デキャンプが保管していた3時
間にも及ぶオープンリールであった。
その一部は2012年3月(日本は4日先行、アメリカはウェスの誕生に合わせ6日)に《Wes Montgomery/
Echoes of Indiana Avenue》と題されリリースされたもので、音源提供者のオレゴン州セーラム在住
のアメリカ人ギタリスト、ジム・グリーニンガーはデキャンプが所有していたとは知らなかったそう
だ。
その中の2時間余りが1957-59年にわたるウェスの日常音楽活動の姿を捉えた珍しくも貴重なものであ
り、2枚組LPが4月13日限定3000枚《Wes Montgomery/Back on Indiana Avenue: The Carroll DeCamp
Recordings/Resonance HLP-9036》を、4月19日には2枚組CD《同タイトル/Resonance HCD-2036》と
して日の目をみた。
相変わらずの録音データ不足が残念であり、デキャンプが書き残さなかった?という。
《Echoes of Indiana Avenue》では今は亡きミュージシャンでインディアナ大学の音楽教授であった
デヴィッド・ベイカーの経験と知識のもとに推測され記載されたという。
本作のリリースにおいてライナー・ノーツは、ピアノ兼作曲家のルイス・ポーター等がピアニストを
視点に検証記載したそうで、彼は数年前、生前のデキャンプにこの録音データについて偶然にも話し
たことがあったという。それらを紹介する。
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デキャンプの記憶では「ピアニストとして、まずオルガンのメル・ライン、ウェスの弟であるバディ・
モンゴメリが数多くのトラックに参加しているが、他にも、ジョン・パンチ、アール・ヴァン・ライバ
ー、カール・パーキンスも入っていた」という。
ポーターの検証作業には、ジョン・パンチと長年共演したベーシストのジェイ・レオンハード、バディ
の弟子でもあったピアニスト、デヴィッド・ヘイゼルタインが加わり、デキャンプの甥のギタリスト、
ロイス・キャンベル、ピアニストのマイケル・ワイス、バディのドラマーとして共演したジョージ・
フルーダス等に助言していただいたそうだ。
また、ピアノを弾くメル・ラインの録音も全員が確認し同意したと言うが、これらの録音データは
あくまでも知識に基づく推測である、と念を押している。
レコーディングについてデキャンプの記憶では「ほとんどの録音は地元の一流エンジニアだった」とい
う。
ポーターはエンジニアの特定を求めインディアナポリスの現役のエンジニア等関係者に聞いて回ったが
わからなかったというが、エイドリアン著の「ウェス・モンゴメリ」の20ページには・・ウェス等は50
年代地元のチャック・ベリーが(ロック・ミュージシャンではない)所有するリハーサル・スタジオを自
由に使わせていただき、録音許可も貰っていた・・と書かれてある。
(参考: 本作ブックレットに59年撮影のデヴィッド・ベイカーとデヴィト・ヤングが参加するセッション
風景がある)
このスタジオを使った可能性は大きく、そうであるなら本作は【リハ録り】のテープがデキャンプの手
元に渡ったと推測される。
他にも、食器のあたる音や話し声が入ったライヴ風のレコーディングもあるが、デキャンプの記憶では
「ウェスの自宅で友人等を招いたライブを自分で録音した」と、語っている。
ポーターは「デキャンプの記憶どおり、《Echoes of Indiana Avenue》同様、全く拍手がないことから
バーやクラブで演奏されたものではない」という。素晴らしい考察力です。
本作の収録はいくつかのグループに分けられており、順次ポーターの考察を見分してみたいと思うが、
そのライナー・ノーツで解説されている曲順と実際のCDに収録されている曲順が違っている。
おそらく、ポーターが渡されたデモCDはオープンリールに収められたもので、それに準じ解説している
と思われる。(業界では商品化するときに曲順構成するのは当たり前のことです)
その中で残念なことが見つかった。
CD-2のナット・コール・スタイルの部分である。
その前に、1曲目に収録されている〈Stompin' at the Savoy〉はナット・コール・スタイルではないた
め2曲目以降8曲分がナット・コール・スタイルとなる。
それで分かり易くするため、曲順をポーターのライナー・ノーツに合わせます。
それにより【残念な部分】が浮かび上がります。パーソネルも彼の推測に従って記載します。
【DISC ONE】
PIANO QUARTETS:
Wes Montgomery(g) unknown(p) unknown(b) unknown(dr)
Expected performers: Earl Van Riper, Buddy Montgomery, John Bunch, Carl Perkins, Mel Rhyne(p)
Monk Montgomery, Mingo Jones(b) Paul Parker, Sonny Johnson(dr)
Multiple unknown sessions, Indianapolis; period 1957-'59
1.'Round Midnight (7:12)
2. West Coast Blues (3:14)
3. Four On Six (4:45)
4. So What (4:56)
5. Mr. Walkerr (3:45)
6. The End of A Love Affair (4:25)
7. Tune Up (4:34)
1957年から59年にかけての複数のセッションとおもわれる。
〈'Round Midnight〉はピアノの調律が狂っており、聴衆の声は聞こえないが、ウェスの自宅での録音と
思われる。
59年のリヴァーサイド録音《The Wes Montgomery Trio/A Dynamic New Sound》に収録の聴きなれたイン
トロとエンディングではなく、ガレスピーに似た短いテーマから入る。
〈Four On Six〉ではウェスは珍しくベンドを使っている。
〈So What〉はマイルスが1959年8月に《Kind of Blue》をリリースした中の収録曲であり、ソロの出足
も似ていることからアルバムを聴いての演奏と思われる。
〈The End of A Love Affair〉は、56年のアート・ブレイキーとジャズ・メツセンジャーズの演奏スタイ
ルと酷似しており、ホレス・シルバーのアレンジであることはほぼ間違いない・・つまりメロディもそう
だし、ラテンビートと4ビートを組み合わせるリズムとか・・ニュース速報 No.127(2019.3.13号) で報じ
たようにこの曲はレゾナンス・レコードよりコンピレーション・アルバム《Jazz Haunts & Magic
Vaults》で2016年11月5日に先行リリースされている。
ORGAN TRIO:
Wes Montgomery(g) Mel Rhyne(org) Paul Parker(dr)
unknown Studio, Indianapolis; period 1957-'59
8. Jingles (8:19)
9. Nothing Ever Changes My Love For You (5:56)
10. Ecaroh (3:49)
11. It's You Or No One (4:29)
〈Nothing Ever Changes My Love For You〉は56年にナット・コールやダイナ・ワシントンがレコーデ
ィングし、翌年ジョージ・シアリングによるラテン風のインストゥルメンタルでリリースされたが、ウェ
スも同じラテン風だがテンポを速め聴きやすくしている。
〈Jingles〉〈 Ecaroh〉の2曲も59年のリヴァーサイド録音《The Wes Montgomery Trio/A Dynamic New
Sound》に収録されている。
SEXTET:
Wes Montgomery(g) Buddy Montgomery(p) David Baker(tb) David Young(ts) unknown(b) unknown(dr)
Expected performers: Monk Montgomery, Mingo Jones(b) Paul Parker, Sonny Johnson(dr)
unknown Studio, Indianapolis; period 1957-'59
12. Whisper Not (6:45)
13. Sandu (4:26)
〈Whisper Not〉はベニー・ゴルソンの《New York Scene》よりも58年頃のりー・モーガンとゴルソンで
2管を成す《Art Blakey and The Jazz Messengers》の編曲に近い感じがする。
軽快なテンポの〈Sandu〉は55年の《Clifford Brown and Max Roach Quintet》とよく似た2管編成で
演奏しているが、ウェスのお気に入となって61年のリヴァーサイド録音《 Movin' Along》では6弦すべ
てを "1オクターヴ" 下げてチューニングした大きなギターで演奏している。
【DISC TWO】
2枚目のディスク、1曲目〈Stompin' at the Savoy〉は、ディスク1の14番目として続くものでライナー
・ノーツでは「このセットの残り」つまり最後に、という意味から解説されている。
Wes Montgomery(g) Buddy Montgomery(p) unknown(b) unknown(dr)
Expected performers: Monk Montgomery, Mingo Jones(b) Paul Parker, Sonny Johnson(dr)
probabry"The home of Wes", Indianapolis; period 1957-'59
1. Stompin' at the Savoy (7:26)
アップテンポの演奏でドラムス・ソロも含むかなり大音量だったと思うが、この録音がウェスの自宅で
行われたというのだから信じがたい部分もある。確かに録音は素人レベルなのでデキャンプが適当にマイ
クを置いたのであろう。ピアノはバディと言う。
58年録音のワールド・パシフィック《Wes Buddy and Monk Montgomery》にも収録している。
NAT "KING" COLE-STYLE:
Wes Montgomery(g) Mel Rhyne(p) unknown(b)
Expected performers: Monk Montgomery, Mingo Jones(b)
unknown Studio, Indianapolis; period 1957-'59
2. It's You or No One (9:21)
Wes Montgomery(g) unknown(p) unknown(b)
Expected performers: Earl Van Riper, Buddy Montgomery, John Bunch, Carl Perkins, Mel Rhyne(p)
Monk Montgomery, Mingo Jones(b)
unknown Studio, Indianapolis; period 1957-'59
3. Opus De Funk (6:52)
Wes Montgomery(g) Buddy Montgomery(p) unknown(b)
Expected performers: Monk Montgomery, Mingo Jones(b)
unknown Studio, Indianapolis; period 1957-'59
4. Summertime (9:38)
ここまでは、スタジオ録音で〈Summertime〉は59年録音のワールド・パシフィック《Montgomeryland》
にも収録されている。これより以下はウェスの笑い声や周りの話し声、食器のあたる音が終始雑音として
入っている。〈Easy Living〉の雰囲気としては《Echoes of Indiana Avenue》に収録された
〈After Hours Blues〉のように楽しい。
Wes Montgomery(g) Mel Rhyne(p) unknown(b)
Expected performers: Monk Montgomery, Mingo Jones(b)
probabry"The home of Wes, Indianapolis; period 1957-'59
5. Easy Living (5:49)
6. Four (5:36
??
??
【残念な部分】というのはここからです。
ポーターのライナー・ノーツでは「最後の4トラックは演奏の背後に聴衆のざわめきが聞こえる。
どうやらウェスの自宅でパーティーでも開催されているのか」・・そう4トラックと書きながらCDには2
曲しか収録されていない。
ポーターに渡されたデモCDには4曲収録されていたしか思えなく、本作の収録時間の関係でカットされた
可能性が高い、もしくは雑音があまりにも大きすぎたのか。いずれにしても詳細が知りたい。
Wes Montgomery(g) John Bunch(p) unknown(b)
Expected performers: Monk Montgomery, Mingo Jones(b)
probabry"The home of Wes, Indianapolis; period 1957-'59
7. I'll Remember April (5:23)
8. The Song Is You (8:48)
やはり聴衆の声が入り込んでいたり、誰の足なのかテンポをとる踏む音など・・これもホームパーティー
なのか。
ジョン・バンチは21年にインディアナ州ティプトンで生まれ、14才頃にはピアノで活動していたといわれ、
戦争で捕虜となり収容所でビックバンドの編曲を学んだそうだ。
56年にはロスへ渡りそれ以降ははニューヨークで活動した経緯があり、この2曲がいつ頃の録音か真相が
知りたい。
ただ、毎年5月の戦没者追悼記念日の週末に開催されるインディ500レースの頃に出身者の帰郷があり、
このような機会があったのかも知れない、とのことです。
Wes Montgomery(g) Carl Perkins(p) unknown(b)
Expected performers: Monk Montgomery, Mingo Jones(b)
unknown session, Indianapolis; period 1957-'59
9. Between the Devil and the Deep Blue Sea (4:51)
ピアノは伝説的なイメージが強いカール・パーキンスと言う。彼は28年にインディアナポリスで生まれ
49年頃には活動拠点をロスに移し、その後マイルスやクリフォード・ブラウン、オスカー・ムーア、ガレス
ピー、ペッパー、ベイカーなど多くの共演を果たすが、これからという58年3月に亡くなった。
この一曲がいつ頃の録音か真相が知りたい。ただ、バディはパーキンスとは親交があったと、後のインタビ
ューで答えている。
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キャロル・デキャンプの弟子のブルック・ラインダラーは「キャロルはウェスが大好きで、いつも
彼の話を聞かされていた。それで若き才能あるウェスを連れナット・コールに合わせようと連れて行った。
ところが、ナットは読んでいた新聞から目を離すことなく、興味も示さなかった」という。
それはナット・コールがインディアナポリスに来演したときで場所もどこだったか分からないとのことだ
が、61年のグリーソンのインタヴュー記事でウェスは「ブラウンスキン・モデルやスヌーカム・ラッセル
と共に巡演に出たよ」と答えており、アイザック・スヌーカム・ラッセルとは46年、彼のバンドがインデ
ィアナポリスのトムリンソン・ホールでナット・コール・トリオと共に出演し、翌47年まで巡演した。と
あるがどこまでウェスが関わったは不明。
本作の音源が今日まで残っていた奇跡についてサックスのジェイミー・エバーソルドは「デキャンプとは
友人でも何でもないが、人伝えに彼がウェスの録音を保管していると聞き、このテープを長く保管すべき
ではないですかと連絡したら、しばらくしてテープが届けられたんだ。
それでとりあえずDATにダビングしてから何か月が何年か忘れたが返却の催促があったのでCDにダビングし
たものと一緒に送り返したよ。
そのあとデキャンプの自宅が全焼したという話を聞いたとき、気の毒さとよかったという複雑な気持ちに
駆られた。
ただ心残りは、オープンリールからDATへのダビングが100%ではなかったような気がする、リールは回っ
ているのにDATが止まっていたようにも思うが、今更悔やんでも後の祭りだ。
そう、録音データがリールの箱に書いていたようにも思うが、覚えていないし、書き写すという気持ちも
なかったからね。」とゼヴ・フェルドマンに答えている。
デキャンプの半焼けになったこのオープンリールは、思えばニュース速報 No.103(2012.3.31号) で報じた
通りアメリカ人ギタリスト、ジム・グリーニンガーは1990年に状態のよくないテープを入手し、自ら保存
のためにディジタル化を行ったと言う話、そう、それが冒頭にも記載した《Wes Montgomery/Echoes of
Indiana Avenue》と題されリリースされたもの、と一瞬思ったが、デキャンプの火災は2004年5月という
ことですから噛み合わない話です。
ただ、このように大事なプライベート録音もいつの間にかコレクターに拡散するという現実です。
追記: 【残念な部分】について。
5月24日ライナー・ノーツを書いたルイス・ポーター本人にメールで確認した。
つまりは、CD化にするとき想定どおりライナー・ノーツを書いたあと、曲順の入れ替えがあり、混乱を
招いてしまったと弁明されました。
正しくは、CD2の解説で2曲目から4曲目のあと・・「最後の5トラックは・・」となり、5曲目と6曲目
が解説され、「さて、残りの3トラックは・・」となる。
日本のウェス・ファンによろしくとのことでした。
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