二つのギター パート1
これまでウェスが使ったとされるギターについては種々様々な見識で議論されてきました。
しかし、それも発掘録音と同時に未発表写真も多数見られたことで大筋使用してきたギターが判明し
てきた。しかし、まだ解明されていない二つのギターがあります。
その一つは、1935年(34年という説もある)ウェスは質屋で見つけた4弦のテナー・ギターを兄モンク
がアルバイトで貯めた13ドルを貰い購入した、という話。
二つ目は、「僕は結婚して2〜3か月後に6弦ギターとアンプを買った」とウェスがインタヴューで答
えている通り、1943年5月か6月頃に買ったとされる、チャーリー・クリスチャンモデルのギブソン
ES-150を購入した、という話。この二つのギター器種について可能な範囲で考証してみた。
考証となる条件は: (a)買った時代のモデル (b)買った金額 (c)証拠写真とする。
ます、4弦のテナー・ギターは意外なことから解れた。
当サイトのニュース速報【No.130 (2020.7.11号) ウェスはロッカーの夢を見た】で掲載した1944年
11月、地元R&Bバンドのフォア・キングス・アンド・ジャック(The Four Kings and A Jack)にま
だ無名のウェスがインディアナ大通にあるラムブギー・クラブに出演した、そのショーの広告写真の
右端にウェスの姿が見られるという記事で、ウェスの持っているギターが4弦テナー・ギターに見え
るというものである。
元となるインディアナポリス・スター紙に掲載されたモノクロ2階調のドット写真を拡大してみたが
不鮮明さはあるもののギターヘッドに注目すると4弦テナー・ギターの特徴を有している、とギブソ
ン・ボーイさん初め何人かのギター有識者が答えてくれた。

1935年に中古で買ったということから、
それ以前に販売されているモデルに合わ
せるとギブソンTG-50が浮かび上がった。
ギブソンのアーチトップ L-50を基本に
したテナー・バージョン(サウンドホール
のあるフラットトップもある) TG-50は、
1934年から1957年まで製造販売された。
当時のギブソンのカタログ価格は50ドル
で、その下位のモデルTG-30は30ドルでし
た。
ギブソンは型番と価格が同じというセオ
リーがあり・・わかりやすい。
TG-30はホディの裏側にバインディングが
ないことや他にも同年代のアーチトップ
L-7を基本にしたTGL-7やTG-7は基本的
にはカスタム・オーダー品で100ドル以上でしたから、中古で売られても13ドルということはあり得な
いことから価格的に除外した。

Gibson TG-50 Tenor Guitar 1934(left) 1935-36(right)
Body size at lower bout: 16". Scale length: 23" . Nut width: 1 1/8".
  
headstock 1934 headstock 1935-36
1920年代ジャズは実質的にバンジョーが定義され、1930年初期にはビッグバンドのリズムセクション
としギターに取って代わられていた。しかしテナーギターの開発はそのバンジョーのプレイアーがス
ウィング時代に変わっていくなか、よりスムーズなソノリティへ・・つまり打楽器的なサウンドから
ギターサウンド・・に移行していくことを援けたと思う。
タイニー・グライムズ、エディ・コンドン、1931-32年にかけてアームストロングがオーケイ・レー
ベルに録音したなかのマイク・マッケンドリックといったジャズ界やカントリーでも人気を得た。
1950-60年代のフォーク界を代表するキングストン・トリオのメンバーとして知られるニック・レイ
ノルズによって1960年代に大きくブーストさせたこともあった。
Gibson TG-50 Tenor Guitarのサウンド
ウェスのテナー・ギターがこのギブソンTG-50としても、更に別の考証がある。
それは不鮮明な新聞写真ながら、ピックアップとコントローラが取り付けられているのが確認できる。
当然、TG-50はアコースティック・ギターであり、中古で13ドルの価格にオマケとして付いていたとも
考えにくい。
それで、同じく1935年から44年に販売されたピックアップに照準を合わすとロウ・インダストリーズ
社の最も古い1941年のパンフレットにアーチトップ・アタッチメント式ピックアップ【D100】がヒッ
トした。

ディアルモンドが設計した6弦用ですが、まだ4弦用は未開発だったと思う。
"Catalog, 1941 November, Silver, Form D100, Model FHC" F-HOLEタイプの(C)はボリュームコント
ロール付きで25ドル、コントロールなしで20ドルというカタログ価格である。
アタッチメント式とはフローティングといってボディにビス止めではなくブリッジからアングルを利
用してピックアップを浮かした状態で取り付けたものとなる。
確認のためミュージックピックアップスのベンに新聞写真と共にメールした。
「不鮮明ではあるが、D100のようにも見えますね。ただ私には浮いているようには見えずボディに取
りつけられているようにも見える」と答えも不鮮明でした。
それで別の見方としてボディマウント(ピックアップのサイズにボディを切り込んでビス止め)されてい
るとしたら・・もしかして、ギブソンのテナー・ギターEST-150 1939年のモデルにはチャーリー・クリ
スチャン・スタイルのピックアップがボディマウントされていたので、同様なピックアップ・パーツと
して取り付け加工したのか、またできたのか、ということでギブソンに問合せると「当時のギブソンの
カタログにも、部品としてのピックアップを掲載した記憶がありません。1936年から一部の楽器が電気
化されたことで、故障すれば送り返していただけると考え販売店では修理できないぐらい最先端な技術
だったからです。戦後(1945)ピックアップがP-90に変更されたのが、部品を購入できる最も早い時期だ
と思います。ですから立ち行かなくなった修理は別のギターから取り外すしかなかった」と説明された。

Gibson EST-150, 1939, EXC, Charlie Christian style pickup,
Smaller notched 'Charlie Christian' pickup.
Smaller notched・・切り込みサイズが小さいとある。6弦ギタ
ーに比べてのことで4弦用に作られた。
ギブソンが開発したクリスチャン・モデルのピックアップは6弦ギター、4弦テナーのギターやマンド
リン、ハワイアン・ギターなどにマウントされ販売されたが、これらから部品取りまでしたとも考えに
くいですね。
それでも付けたんだとなれば、チャーリー・クリスチャン・スタイルのギターを持っていたと呼ばれる
のは4弦テナー・ギターのほうが先だったということになる。
いずれにしても不鮮明な新聞写真ではピックアップの選定には無理があるが、ブリッジ近くに大きなコ
ントローラが付いてるようなので、ここでは後付けのピックアップまでに留めることにする。
4弦のテナー・ギターの考証は以上ですが、この新聞写真の広告は前述のとおり1944年11月に掲載され
たが、ウェスが6弦を手にしたのが1943年5月か6月頃という事実も、彼はまだ練習中の6弦は実践的
ではなく手慣れた4弦のテナー・ギターでアルバイトしていたという、のちの440クラブに出演するあ
たりまで使ったと思われる。
次に二つ目のチャーリー・クリスチャンモデルのギブソンES-150を購入した、という話はパート2で。
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