ア・デイ・イン・ザ・ライフ
67年12月A&Мよりリリースの《A Day in the Life》が68年に大ヒット
をもたらせ、他ならぬアメリカ合衆国のニュース雑誌 "TIME" の音楽コ
ーナーに掲載されていた。
1968年5月17日号、ということはウェスが亡くなるほぼ一か月前の発行
であった。
記事は、"驚きのウェス、あるいは「ある日の一日」" と、あるが「ある
日の一日」とは《A Day in the Life》に引っ掛けてのタイトル付けと思
われる。
記事は、アーティストでフォトジャーナリストのアルフレッド・スタト
ラーの提供する写真と共に、ウェスの成功までの成り立ちが短く描かれ
ているが、表紙にウェスの写真が使われなかったのはまことに残念です。
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時は1943年の場面: ここはインディアナポリスの440クラブです。
ステージには、ウェス・モンゴメリというぽっちゃりした20歳の若者が座っている。
偉大なジャズギタリスト、チャーリー・クリスチャンのレコードからインスピレーションを得た。
彼は日雇い労働者の賃金でギターを買い、チャーリー・クリスチャンのソロを丸暗記した。
今、彼は初めてプロとしての出演で、それらを完璧にこなしている。
テーブル席の観衆(びっくり): もっと! もっと!演ってくれ。
ウェスは、コピー・ソロを繰り返す。それが知っている全てです。
専門的な音楽知識はありません。
他のミュージシャン: いや、野次馬的。俺たちみたいに即興でやれよ。
1960年のサンフランシスコのジャズ・ワークショップを見てみよう。ウェスは、少なくとも、即興演奏
を学んできた。
しかし、37歳の今になってようやく、兄弟であるモンクとバディのマスターサウンズというグループに
参加するために、インディアナポリスから離れた。
彼の演奏は堂々たるものであるが、型破りだ: ピックの代わりに親指で弦を弾くので、ソフトであり
ながら強烈なトーンを発出する。
ポスト・クリスチャンのギタリストにありがちなループ状のレガート(注:なめらかに、そして途切れな
くつなぐ)ではなく、効果的な短いフレーズを使う。ジャズ批評家ラルフ・グリーソンの登場だ。
ここ10年で最もエキサイティングで独創的なジャズ・ギタリストだ。
ウェス:長い間、僕の演奏は「独特だね」と言われてきたけど、僕自身そう思っていなかった。
お世辞気味に、ただ酒をおごってほしいだけなんだろうと思っていた。
1965年、マンハッタン郊外のレコーディング・スタジオを見てみよう。
ウェスは今やジャズ界のトップ・ギタリストとして確固たる地位を築き、ミュージシャン仲間から賞賛
され、模倣され、評論家の投票では高評を得ている。しかし、ジャズ以外の商業音楽の世界では、無名
の存在であった。レコード・プロデューサー、クリード・テイラーの登場だ。
テイラー:君のレコードはあまり売れていない。
私のアイディアは、《Goin' Out of My Head》のようなヒット曲を、弦楽器や木管楽器など、大編成オ
ーケストラと一緒に録音することだ。
ウェス:僕がエルビス・プレスリーの曲を演奏しても面白くないでしょうし、そのうえ自分が何をして
いるのかよく分からない。
まして他のミュージシャンがスタンドのあちこちに紙(注: 演奏上の注意事項なのか)を貼って
いるのを見ると、余計に緊張してしまうんだ。
テイラー:試してみようじゃないか。事前に曲のテープを送るから、メロディーを覚えておいてくれ。
スタジオで私がアレンジを説明するから。
現在の場面:どこかのジャズクラブ。
《Goin' Out of My Head》を皮切りに、ウェスのポップ・ジャズ・アルバムは、多くの新しい聴衆が彼
のライヴに押し寄せるようになった。
この9ヶ月間、彼のアルバムはビルボードのジャズ・アルバムのベストセラー・チャートで1位を獲得
し続けているのです。
今週で25万枚を売り上げた《A Day in the Life》が32週連続で首位を維持している。
ジャズ・ファンの異口同音: 人気者ですね。
今や会計士、弁護士、広報担当者がいるじゃないか。売れちゃったね。
ウェス:ジャズに限らず音楽は、ただ演奏するだけでは意味がないんだ。魅せられるように演奏するん
だ。
兄弟を含むクインテットをバックに、彼は演奏を始める。特徴的なオクターヴ奏法のスタイルは、以前
よりもまろやかでメロディックになった: しかも、すべてにブルージーなフィーリングが感じ取られ、
純粋なファンは指を鳴らしながら、ポップ、ロック、R&Bのファンと共に、最後に拍手を贈る。
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記事的内容には目新しいものではなかったが、今年3月のアメリカのネットオークション・サイトに冒
頭に説明のアルフレッド・スタトラーのコレクションが出品されていた。
【68年5月17日発行のタイム誌に掲載された、Englewood Recording Studioでのウェス・モンゴメリ】と
題され、「アルフレッド・スタトラーがタイムに寄稿したコンタクトシートやドキュメントを集めた、
ユニークでヴィンテージかつオリジナルのコレクターズロットです。
これらのアイテムは、スタトラーのアーカイブから、彼のオリジナルのファイリングフォルダに入った
ままです。
このファイルは1968年5月に作成され、写真撮影のためのコンタクトシートとベタ焼き含んでいます」と
いうものである。
ベタ焼きとは、現像されたフィルムのまま印画紙にプ
リントしたもので、2巻分はあるようです。
(参考に一部掲載するが、画質は劣化させているので
了承願います)
残念ながらオークションには参加しなかったが、出品
された画像を見ると、ニュー・ジャージー州 イングル
ウッドの音楽スタジオでの演奏風景に間違いはないで
あろう、誠に貴重なコレクションであったことが窺え
る。
ウェスはヴァーヴと契約以後、2作目の《Bumpin'》から移籍後のA&Мでの遺作となった《Road Son》
までのすべてがここニュージャージー州イングルウッド・クリフスのヴァン・ゲルダー・スタジオでの
レコーディングで、スタジオにはフェンダーのツイン・リヴァーヴが常設してあったという。
ベタ焼きにはそれらしきアンプも見て取れるが記事の内容から、《A Day in the Life》での撮影なの
か?まさに、ある日の出来事、一日であった。
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